最近、世の中のクラフトビールのパッケージとして缶が増えています。
缶にはいろんな利点があります。瓶より軽い、割れない、コンパクトなどですが、クラフトビールメーカーが注目する最大の理由は「完全な遮光性」です。ビールは光によって“控えめな言い方で「とても不快な成分」”が作り出されます。
この不快な成分を作る光の波長は400nmから500nmで紫外線でも赤外線でもなく可視光線です。ビールで一般的に使われる瓶の色「茶色」はこの波長をかなりブロックします。しかし完全ではありません。真っ暗な所に保存しない限り、瓶ビールはやがて不快な飲み物になります。しかし、缶は違います。完全な遮光性でビールを光から守ります。
缶の歴史は18世紀末のフランスにさかのぼります。ナポレオンは遠征する兵隊たちのための食料の長期保存方法を公募します。そしてニコラ アペールという人が考えた「瓶の中に調理済み食品を入れ、瓶のまま湯煎加熱をして栓をする」というアイデアが採用されます。偶然にも熱による殺菌で長期保存を可能にしていたのでした。
このすばらしいアイデアの最大の欠点「瓶は割れやすい」を英国人が解決します。1810年、ピーター デュランがブリキ製の容器を発明し、缶詰が誕生します。
1813年英国で最初の缶の生産工場が稼働しますが缶はすべて手作りでした。1846年ヘンリー エヴァンスが缶を生産する画期的な機械を発明します。この機械により、生産能力は飛躍的に向上、1時間あたり16個の缶を生産が可能になりました(それまでは6個)。
しかし、缶における歴史上最も画期的な発明は、1858年コネチカット州のエズラ ワーナーにより発明された「缶切り」でしょう。実に缶の発明からほぼ50年後、つまりそれまで、缶は「缶切りではない物」を使って開けられていました。初期の缶は厚いブリキ製で、大きく、重く、斧とハンマーなどで、力ずくで開けられていて、かなり危険な作業でした。それがテクノロジーの進歩で缶は薄くなり、缶切りというツールを可能にしたのでした。
炭酸飲料の容器として最初に缶に注目していたのはアメリカでした。1900年代初頭にAmerica Canという会社によってビール用缶の開発が始まっていました。課題は、圧力に耐える事とビールと金属が接触しないように内側に塗るライナーの開発でした。
最初の缶ビールはニュージャージー州ニューアークの小さなブルワリーGottfried Krueger Breweryによって作られます。1933年2,000缶を試作、コアな顧客に送り91%が好意的という結果を得ます。そして1935年1月24日バージニア州リッチモンドで試験販売を開始します。これが最初に市販された缶ビールで、試験販売は大成功をおさめます。
でもなんで、ニュージャージーの会社がバージニアで?
それは、「もし缶の評判が悪くても、最大マーケットのニュージャージーまでは届くまい」と考えたからなのでした。