スコッチウイスキーの歴史は、19世紀と20世紀がブレンデッドウイスキーの時代なら、21世紀はシングルモルトウイスキーの時代と言えます。新しいブランド価値が醸成されたことで、ブレンデッドウイスキー向けの蒸留所がシングルモルトのリリースを始める動きは、もはや珍しいものではなくなりました。
そうした変革の中、この数年で最も大きな動きを見せた蒸留所が、今回紹介するスペイサイド地域のグレンアラヒー蒸溜所です。
グレンアラヒーの創業と拡大
グレンアラヒーは、南極探検隊のウイスキーとしても知られる、マッキンレーの構成原酒となるべく1968年に創業を開始(設立は1967年)。1980年代には生産調整から一時操業を休止したり、蒸留所所有者も変わるなど紆余曲折はあったものの、約半世紀の間ブレンドウイスキー向けという位置づけは変わらず。ボトラーズリリース以外では、シングルモルトがほとんど市場に出回らなかった蒸留所の一つです。
潮目が変わったのは2017年のこと。ベンリアックやグレンドロナックを世界的ブランドに成長させたことで知られる、ビリー・ウォーカー氏が蒸留所の所有権を取得し、シングルモルトウイスキーのリリース拡充へと舵を切ったのです。
グレンアラヒー12年と18年の比較
グレンアラヒーの酒質はプレーンな系統で、若いうちは麦芽風味と共に粗さが多少感じられますが、熟成を経ていくことで適度な厚みを残し、芳醇かつフルーティーな熟成香を纏う、大器晩成型の傾向があります。
個人的に、そうした特徴をうまく表しているのが、12年と18年の2本という印象でした。18年には、1970年代蒸留を含む年数表記以上の熟成を経た原酒が使われており、華やかなオークフレーバーとしっかりとした熟成感が備わっています。樽はシェリー樽を主体とする表記も見られますが、そこまで強くシェリー感が主張しないので、バーボン系の樽に加え、シェリー樽ではアメリカンオークのリフィルを軸に一部1st fillを使っているという感じなのでしょう。複数の樽感と酒質由来の麦芽風味が合わさり、1本軸の通った複雑さのある味わいが特徴と言えます。
一方、18年に対して12年は、オークフレーバーの中に微かなシェリー感と、若い原酒由来の酸を感じる構成。発売当時、メーカーからシェリー樽の比率は3割程度と聞いていましたが、リフィルシェリー樽が多かったのだと思います。そのため、18年への熟成途中という位置づけで、傾向がわかりやすいという認識でした。
それが今回記事を書くにあたって12年を購入し、約1年ぶりに手に取ってみたところ、まず驚いたのが流通初期のものとの色合いの違いです。飲むとオロロソに加えて、PXシェリーカスクを思わせる色濃い甘みとウッディネスが序盤から広がり、後半にかけては微かなオークフレーバーがアクセントになっている。明らかに1st fillシェリー樽の比率が上がっているように感じられました。
正直なことを言えば、発売当時にテイスティングした12年は、単体で勝負できる18年や他の同価格帯スペイサイドモルトに比べて位置づけが曖昧というか、武器が少ない印象でもありました。
シェリー樽の影響と新たなスタイルの可能性
近年、5000円前後の価格帯からリッチなシェリー感のあるウイスキーが姿を消しつつある中、シェリー樽の影響が強くなったことで、価格に対する納得感とジャンルでの住み分けがはっきりしたように感じます。また、若い原酒由来のフレーバーがシェリー樽由来の要素でカバーされるなど、香味の面でも良い変化が見られたと思います。
グレンアラヒー蒸留所から、これらのラインナップがリリースされ始めてまだ2年。現在の姿が、蒸留所の目指すハウススタイルの最終系なのか、それはわかりません。
今回の12年の変化もそうですが、今後新たなスタイルを取り入れていくことも考えられます。実際、蒸留所ではピーテッドモルトの仕込みが始まっていたり、各種シングルカスクリリースに加えて、10年程度の熟成の原酒を様々な樽でフィニッシュした限定ボトルのリリースもあるなど、様々な可能性を模索しているようにも見えます。
遅咲きのシングルモルトブランドが、今後どのように進化していくのか。その酒質同様に時間をかけ、大魚へと成長していく姿を我々愛好家は楽しんでいければと思います。
(ブレンデッド向け原酒時代のグレンアラヒーのボトラーズリリース(写真左)と、マッキンレー社がリリースしていたブレンデッド銘柄(写真右)。長期熟成を経てフルーティーさをしっかりと感じるグレンアラヒー39年。5年熟成表記と若いながら麦芽風味を主体に楽しめる要素が多いマッキンレーズ・グレンクローヴァ。古い時代のボトルをBAR等で探して楽しむのも面白い)