北米大陸で最初のヨーロッパ風商業醸造所はどこでしょう。意外にも、アメリカではなく、現在のメキシコ・当時のニュースペインです。1541年8月24日、ドン・アロンソ・ド・エレーラはニュースペインでの商業醸造の申請をしました。翌1542年6月6日、カール5世(神聖ローマ帝国皇帝およびスペイン国王)はニュースペインで独占的にビールを作るライセンスを与えます。 さらに翌1543年12月12日、現地ニュースペインの総督ドン・アントニオ・ド・メンドーサが醸造所建設の許可証を発行します。
こうして、新世界初のブルワリーがスタートしました。スタートはしたものの、いろいろな障害に直面します。もともと地元にあった、テスグイノ、プルケ、テパチェといった醸造酒との競合や、材料不足による価格の高騰などです。さらに、植民地でのビールやワインといったヨーロッパ風飲み物は規制が厳しかったり、重税がかけられたりしていました。それは、本国スペインから植民地への輸出保護のためでした。 ドン・アロンソはカール5世に贈り物をしたり、総督ドン・アントニオに飲めるだけタダで飲ませていたにも関わらず、1552年の記録を最後にブルワリーは閉鎖されてしまいます。
それから、460年以上たった今、メキシコは世界最大のビール輸出国です。アメリカで最も輸入されているビール「コロナ」の生産拠点のひとつ、サカテカス工場は世界最大の生産量を誇り、24時間で2,000万本のコロナが出荷されています。アメリカのクラフトビール界においては、メキシカンスタイルラガーが人気です。また、昔ながらのメキシカンスタイル(ヨーロッパのヴィエナスタイルの影響を受けたスタイル)も健在です