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Still graffiti in America

Tasting Vocabulary 101

ナッツ

日本でナッツというとピーナッツ(厳密には木の実ではないが…)やアーモンド、クルミあたりが一般的だが、それに比べると欧米では日頃口にするナッツの種類はかなり多様だなという印象を受けるかもしれない。もちろんそれぞれの国や地域で流通するナッツは様々だが、ヘーゼルナッツやピスタチオ、カシューナッツ、ペカンナッツにブラジルナッツと様々なナッツが親しまれているといっていい。そんな理由もあって欧米ではウィスキーの薫りをナッツに結びつけることがとても一般的だ。

“Nuts” (https://flic.kr/p/bfg4Hr) by naomii.tumblr.com: CC BY-ND 2.0

実際、ウィスキーの原材料である穀物に含まれる窒素成分はウィスキーにシリアルっぽさやナッツっぽさをもたらすとされている。これらはピートの煙っぽさや果物を思わせるエステルの華やかな薫りと違ってウィスキーの前面にでてくることは稀だが、ウィスキーに飲みごたえや「らしさ」を与えてくれる縁の下の力持ち的なフレーバーといえる。

その他にも油分の多いナッツ特有の舌触りやオイリーさ、こってりさなどウィスキーの表現に使えるものはたくさんある。日本で手に入らないナッツはそうそう無いはずだから、まずは色々なナッツを試してみよう。おすすめは薫りや味わいの特徴が拾いやすいブラジルナッツやヘーゼルナッツだろうか。

High Gravity

Gas vs Liquid

前回、現在市場に出回っているソーダケグのほとんどがペプシ式のボールロック型コネクタ仕様になっていると書いた。接続はワンタッチで、コネクタを引き抜いたときも液やガスの漏れがほとんど無く、非常に使いやすいコネクタなのだが、注意点が一つ。コネクタはガス用とビール用にそれぞれ用途別に分かれており、一般的なプラスチック製のコネクタだと灰色がガス用、黒がビール用になっている。

一方、ケグ側の接続口〜これを「ケグ・ポスト」と呼ぶ〜もそれに対応してそれぞれ別な形状のポストがついているのだが、これが分かりづらい!というか、パッと見では全くその違いがわからないのだ。大抵の場合ケグ本体にはポストの脇に”In”(ガス用)や”Out”(ビール用)などと彫り込んであるのだが、小さな冷蔵庫などではそれらの文字がよく読めないことも多い。

ガス・ポストだと思って灰色のコネクタを差し込もうとするが一向に固定されず、よく見てみたらビール用のポストに差し込もうとしていた、なんて言うことはザラ。実はこれ、まさにこのような間違いを防ぐために相互のポストに異なるコネクタが刺さらないようにできているのだ。目印はポストの根本にある六角ナットについたマーク。横向きにラインが入っていればガス用、なければビール用だ。これに気が付かずに焦って無理やり押し込むのはぜひ避けたほうがいい。力を込めて無理やりロック状態にしてしまうと今度は抜くのが猛烈に大変になってしまう。

時代の証人

高峰譲吉 Part. 3

日本酒を始めとして日本では麹の繁殖に通常蒸米を用いるが、高峰は欧米でより一般的な小麦の廃棄物である「ふすま」を利用することで大幅な低価格化を狙った。

米国蒸溜業界が急激にトラスト化した背景には業界のし烈な価格競争があったが、独占支配が進むと今度は残る非トラスト企業を排除すべく一層価格のダンピングが進むという皮肉な状態に陥っていた。

The Whiskey Trustは同社が全米の蒸溜業者の手中に収めようとしたまさにそのタイミングで高峰を招聘しているが、麹を用いた革新的な糖化技術を手にすればトラストに非協力的な蒸溜所にたいして圧倒的な価格競争を仕掛けられるとの目論見があったのかもしれない。その意味で高峰は当時の米国蒸溜業界の将来をも左右しかねない存在だったのである。

トウモロコシやライ麦に比べて大麦の使用量は極めて少ないが、限定的な生育地域や、製麦プロセスなどによって価格は他の穀物に比較して相当高かった。さらに当時の農業技術では大麦の生産自体が安定せず、一年で価格が二倍に跳ね上がることもザラだった。それでも大麦に頼らざるを得なかったのは、大麦麦芽のみが様々な原材料のデンプン質を糖化できる能力を持っているからだった。

高峰の麹を用いたウィスキー造りの核心の一つは伝統的な日本酒造りのように蒸米を用いるのではなく、小麦の外皮である「ふすま」を使用した製麴にあった。ふすまは小麦を製粉した時に出るいわばクズであり、圧倒的に価格が安かった。高峰はこの技術を英国留学中に発明したが、米国では実用化に向けて当時最新の大麦製麦機を改造して大量生産する計画だったようだ。

事実、彼はWhiskey Trustの創設メンバーの一人Woolnerが所有していたGrove Woolner蒸溜所に併設された製麦所に実験室を設けている。この製麦所は伝統的なフロアモルティングではなく最新鋭の回転ドラム式製麦機を使用しており、これを改造し最終的には近くにあったトラスト傘下のManhattan蒸溜所で大規模醸造・蒸溜の実証実験を行う予定だったようだ。

この記事を書いた人

ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。
ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。