味覚の科学、においの科学……おいしさの科学など「食」をテーマにした書籍や研究は国内外問わず多いです。しかしながら、どうも「酒類のおいしさ」を総合的に科学した書籍というのはあまり見かけません。
というのも、飲酒の研究は社会的・法的に準備をするのが大変で、ハードルが高くなるのが原因の一つです。また、一種類の酒の世界が底なし沼(こう言うと失礼ですが……)のように深く、個人的なおいしさを探求し続ける、まさに嗜好性飲料の世界だからかもしれません。
そもそも「おいしさ」とは何でしょう。
おいしさの三大要素とお酒
おいしさの三大要素は味覚・嗅覚・触覚(食感)と言われています。
味覚である甘味・うま味・塩味は先天的に好きで、苦味・酸味をはじめ広義的な味覚の渋み・辛みは好まれず後天的に摂取できるようになります。
嗅覚は胎内で母親の食べ物のにおいを好みとして学習しますが、多くが後天的に快・不快を獲得します。
触覚(食感)も後天的に学習します。
つまり「おいしさ」のほとんどを後天的に学習するため、家庭の味、文化、地域……つまりは育った環境が大きく個人の嗜好性を左右します。
これらをお酒に投影してみましょう。
アルコール(エタノール)の味は若干の甘味はありますが、苦味・そして痛覚(灼熱感)などが圧倒的に強く、それは嫌悪刺激になるでしょう。つまりほとんどの酒類がおいしくはなく、低アルコール飲料やリキュール、甘いカクテルがおいしく感じるはずです。「若者の酒離れ……」と耳にしますが、食経験を積んでなければ「本能的に飲めない」のが今も昔も当たり前なのです。
「嫌いな酒」を飲めるようになるには?
では、初心者はどのようにすれば「嫌いな酒」を飲めるようになるのか?
これは食行動心理学でいう「単純接触効果」で解決します。言い換えれば、「毎日少しでも摂取する」ことです。もちろんこれはノンアルコールの食品への対処のため、「飲む機会があれば挑戦してみる」と言った意味で捉えてください。(毎日摂取……でお喜びの諸先輩方は、初心者が同じ酒を飲み交わせるようになるまで節度ある飲酒をお続けください(笑)。)
また「嫌いなもの」と「好きなもの」を交互に食べるとより効率的です。最低でも10回はトライすることが重要です。そして、おいしさの三大要素以外で重要になってくるのが内臓感覚や食後体感です。早い話が「二日酔い症状」なのですが、トラウマになった食経験を覆すのはなかなか大変ですので気をつけましょう。
この時期、歓送迎会や花見もあり、様々な酒類に出くわすことができます。現代では飲酒の場を設け、馴染みのない人と杯を交わす機会がなければ「嫌いな酒」を飲む機会もありません。また、そこに酒の文化背景や知識を正しく、そして「楽しく」伝えられる人がいれば初心者の強い味方となるでしょう。 “苦い酒”にはしたくないものです。まさに酒育ですね。