今回は趣向を変えて、特定の人物ではなく「大佐」という肩書をトピックに。英語で言えば「Colonel」のことだ。一体ウィスキーと大佐の間にどんな関係があるのかといぶかしがる向きもあるだろうが、実はバーボンでは結構よく耳にする称号だ。
一番有名なのはColonel James B. Beam。そう、Jim Beamのことだ。それ以外にも現在でもOld Taylorで有名なEdmund H. Taylorや馬のキャップのボトルが特徴的なAlbert B. Blanton、当時米国最古にして最大の蒸溜所を豪語したJames E. Pepperなどがその名にColonelの称号を冠している。
Colonelの意味と語源、日本でのイメージは?
英語の「Colonel」は正確には「大佐」そのものだけではなく「中佐・少佐」も含めた「佐官」というクラスを指す。つまり「佐=Colonel」ということだ。でもここでは「大佐」と便宜的に訳しておこう(ちなみにリビアの「カダフィ大佐」はこの意味で言えば「佐官カダフィ」がより正確だろう)。
語源はイタリア語で「円柱」を意味する”Colonnel”から。つまり「コラム」のことだが、これは行進する軍隊を柱に見立てて、その先頭で指揮をとる者を表現したことに由来するらしい。まさに「大黒柱」というところだろうが、このことから英語圏ではColonelを社会的重要人物に名誉職として授与する習慣がある。
日本で言えば「名誉所長」や「一日駅長」のようなものだが、軍隊階級に由来するだけに毅然としたリーダーシップを持って社会を牽引していくといった凛としたイメージが含まれている。たとえば英国では王族に与えられる”Colonel-in-Chief”。正に文字通り大佐の意味だが、日本語では「名誉連隊長」と訳される軍隊の名誉階級。エリザベス女王だって戦時下の1942年、士気高揚のため赤い制服に熊皮帽で有名な近衛連隊の一つグレナディア・ガーズの”Colonel-in-Chief”に就任している。
ケンタッキーのカーネル・サンダースは?
米国ではもともと独立戦争で戦功のあった軍人を一般人が敬意と親しみを込めて大佐の名で呼んでいたようだが、ケンタッキー州では1812年に発生した英米戦争で多大な犠牲を払った同州の民兵(現代の州兵に相当)に州が勲位として授与したのが始まりだ。当初は軍人のみだったが、時代を経るにつれやがて一般市民も対象となり、19世紀終りには州の非軍人叙勲制度の最高勲位として整備されている。
他の州ではこのようなシステムは発達せず、一般市民に対する「Colonel」の勲位授与はケンタッキー州独自の文化となっており、米国では”Kencucky Colonels”として知られている。
ここまで来て勘の鋭い人ならピンときたかもしれない。そう、ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースもKentucky Colonelsの一人なのだ。そもそもカーネルとはColonelの日本語読み。つまりカーネル・サンダースとはそのものずばりの「サンダース大佐」というわけ。
これでバーボン業界にColonelの名前が多いのも頷けるだろう。Jim BeamもE. H. TaylorもJames E. Pepperも、彼らが皆「大佐」なのは、彼らが当時のバーボン業界で成功を収め、その功績をケンタッキー州が称えたからだ。
残念なことに、その時代時代の知事によりこの叙勲制度は濫用されてしまい、2000年初めまでにはどれだけ勲位が授与されたかトラックできないまでになってしまった。一説には10万人は下らないと言われているほど。どうやらケンタッキー州外の人々にも勲位を与えることが(少なくとも以前は)できたようで、俳優のジョニー・デップや元大統領ビル・クリントン、イギリス首相のウィンストン・チャーチルもKencucky Colonelだったりする。