ウイスキーをはじめとする他のスピリッツを1本も置かず、“100%アガベのテキーラ”だけを飲ませる変てこなBAR。そんな店をやっていると、毎日のように聞かれる質問である。
この問いに正解は無いが、私が端的に答えるとすれば、「酔い心地」の一言に尽きる。無論、味も良いし、香りも良い。飲み込んだあとにスッと消えゆく儚さも好ましい。でも「旨い酒」は世界中にあって、それは完全に嗜好による。自分も、TPOに合わせて様々なお酒を感動とともに楽しむが、頭が冴える高揚感、そして翌日の抜けの良さでは、テキーラがダントツだ。
メキシコには「嬉しいときもテキーラ、悲しいときもテキーラ」という言葉がある。楽しいときはもっと楽しく。悲しみは静かに癒してくれる。心と身体に優しいお酒、それがテキーラなのだ。
…しかし、悲しいかな、テキーラには「強く危険な酒」という真逆のレッテルがべったりと貼られている。この大いなる誤解は、テキーラにとっても、お酒を愛する人にとっても、非常に残念で惜しいことである。
まず、手始めに改めて欲しいのは、その飲み方から。冷凍庫でキンキンに冷やして、ショットグラスに注ぎ、塩とライムで一気飲み。これはNG! 温度が下がれば香りは閉じるし、塩味と酸味で舌は麻痺して、ちゃんと味わうことは難しい。ぜひ、ウイスキーを飲むときのように、香りの感じやすいグラスで、常温で、ゆっくりと。テキーラはグラスに注いで数分で香りが開く。リコリス、シトラス、ペッパー、草原のような爽やかな香り。樽熟成を施したタイプならば、バニラやキャラメルのようなオークの香りも楽しめる。ぜひ今夜から試してみて欲しい。