酒と人とは赤い糸で結ばれていると思う。嬉しいとき、悲しいとき、悔しいとき、楽しいとき。もしもこの世に酒がなかったら、人生は途端につまらないものになるだろう。
木で酒を造る技術を、茨城県つくば市の研究所が開発した。木の樽で熟成させるのでも、木の実を使うのでもない。正真正銘の「木」から酒を造るのだ。
植物からアルコールを作る技術はすでにある。間伐材やトウモロコシ、稻わらを原料とするバイオ燃料だ。ただそれらは、頑固な繊維質を分解するのに薬品を加えたり高温に加熱したりするため、食用にはできなかった。
酒の造り方はこうだ。樹皮をはいだ木の幹の部分を細かく刻み、水を加えて特殊なミキサーでクリーム状にする。そこに食品用の酵素と酵母を加えると、酵素がデンプンを糖に変え、さらに酵母が糖を食べてアルコールに変える。いわゆる「発酵」だ。上澄み液はアルコール2%ほどの茶色い液。これを蒸留して、無色透明の「酒」が得られた。
スギの酒はきりっとクールな香り。シラカバの酒は、できたてなのに樽で長期間熟成したような、芳醇で甘い香りに仕上がったそうだ。
今後、企業と協働して安全性の評価などを進め、「木のお酒」として製品化を目指しているという。酒だけでなく、食品の香り付けにも使えそうだ。
春は満開の桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は冬木立を眺めながら、それぞれの木に由来した酒を味わう。四季のある日本ならではの楽しみ方かもしれない。
米、麦、芋、トウモロコシ。デンプンが含まれるものなら、およそ何でも酒になる。かつては、米を口の中で嚙むことで糖化させ、発酵させて造られた酒もあった。「口嚙み酒」とか「美人酒」と呼ばれた。
人が生きていく限り、酒は造られ続けるだろう。人工知能が大手を振るような世界になっても、これだけは変わらない。