ある日イングランドに住む友人から「明日マッカランの限定ボトルが出るから、蒸留所で買ってきてくれないか?」と電話で頼まれた。ハイランダーインからマッカランまでは車で10分足らずだ。僕は意地悪でもなければ無精でもない。ただ、限定ボトルの発売日がスペイサイドウィスキーフェスティヴァルの真只中でそれどころではない状態だった。僕は友人に「頑張ってはみるけど期待せんといて」と言ったが、彼はただ「Please」と繰り返すばかり。
次の日、朝のオフィスの仕事に始まり、その後フェスティヴァルイヴェントの準備、そして普段より多いお客さんの対応に追われた。僕は「限定ボトル」の事は勿論頭の中にあったのだが、その日の状況が僕に車のハンドルを握らせてくれなかった。夕方近くに夜のスタッフがシフトに加わり、その中の一人がマッカランに朝行ったと教えてくれた。僕は「限定のヤツ買えたんか?」と聞くと、彼は「既に長蛇の列で、朝9時前に行ったのに買えなかったよ」と多少がっかりしていた。ちなみに販売は10時からで、話を聞くと一番前の人は前日から寝袋を持参しての野営だったらしい。ボトルを手にしたラッキーな250人の中には旅行者だけではなく、地元の人も沢山いたらしい。多くの人は朝6時ぐらいから列に加わったのだという。
この限定マッカランは今回でシリーズ3回目。過去の2本は、僕も購入してもちろん口を開けた。このマッカランは古いひとつ前の背の低いボトルに詰められており、ストーリーブックと共に大きな百科事典サイズの立派なブリキ製のプレゼンテーションボックスの中に入っている、かなりお洒落なマッカランだ。さて、それでは中身の方はどうだろう? 正直、過去2つともテイスィングをしたが、プレゼンテーションボックスほどの華やかさはなかった。空き瓶が欲しいと言って持って帰ったドイツ人もいた。果たしてみんな何が欲しいのだろう? 僕はためらうまでもなく美味しい中身が欲しい、そこが一番大事だと思うからだ。それでも現在、中身も瓶もなくなり棚の上に置物と化した大きなブリキで出来た大きな百科事典の様な箱がある……もし誰かが「これ譲ってくれませんか?」と言ってきたら「これは……取っておきたいんですよネ。」と断ってしまうかもしれない。