食べ物とアルコールのマリアージュ(相乗効果)を考える際に重要な要素の一つとして、主役となるアルコールの香りを構成する成分、 “香気成分”にどんなものが含まれているかを理解し、共通の香気成分をもつ食材を選ぶということがポイントになってくる。
ここで注意しなければいけないのは、アルコールも食材も香りというのは単独の香気成分から成っているわけではなく、様々な成分が絶妙なバランスで組み合わさることでその香り「らしさ」を形成していることだ。
ただし、中でもその香り「らしさ」に大きく貢献している香気成分がいくつかあるので、マリアージュを考える際はそのキーとなる香気成分に注目して食材選びをすることになる。
さて、今回は「スモーキー」または「ピーティー」という官能表現で評価されるウイスキーとのマリアージュについて考えていきたい。
ウイスキーにおけるスモーキーさ、いわゆるピート香というものに大きく関与している香気成分としては、フェノール類の一種である “グアイアコール”が挙げられる。
スモーキーなウイスキーとのマリアージュ(相乗効果)を狙うためにはこのグアイアコールを含む食材を選ぶことができると良いのだが、グアイアコールはピート(泥炭)由来の成分であるため、これを含む食品、食材を探すことは難しい。
しかし、代わりに近い化学構造をもつ兄弟のような成分として “オイゲノール”というものがある。
こちらもスモーキーさ、いわゆるピート香ととても近い香りを感じさせるのだ。
オイゲノールが多く含まれるものとしてはクローブ(丁字)が挙げられる。クローブから抽出される‟丁字油”などは、歯科医薬で局所麻酔としても使用されているため、似た香りをもつピート香を「歯医者の香り」と感じたことのある方も多いのではないだろうか。
クローブの他にも様々なハーブ、スパイスにオイゲノールは含まれていて、たとえばバジル、シナモン、ナツメグ、バニラなどにも含まれている。ただしこれらはクローブに比べると含有量が少なく、それぞれのハーブ、スパイス「らしさ」に貢献しているのはまた別の香気成分となる。
弊社アトリエAirgeadでは「BAR専用チョコレート」と称してアルコールとのマリアージュに特化したチョコレートを作っているが、その中で「スモーキー」という商品を発売した。
これはその名の通りスモーキーなウイスキーとマリアージュするために開発したもので、内容としては原料で使用する生クリームにスモーキングガンで燻香をつけ、追加する食材としてクローブの香りをメインに少量のバジル、シナモンを用いて深みを持たせたものである。
決してチョコレートにスモーキーなウイスキーをそのまま加えたようなものでは無い。
もともとは別の食材同士だったものが香気成分の共通点をきっかけに口内から鼻腔を通りぬけ、味わいに幅を持たせてくれる。 一見スモーキーという言葉とは関係のなさそうな食材でも、こうして香気成分を軸にしたレシピ作りをすることで、今までとは一味違ったアプローチが可能となるのが面白いところである。