「かわいいおばあちゃんになりたい」13歳の私は、将来の夢を尋ねられて、そう答えた。
外交官とか、学校の先生とかが模範解答だったのだろう。でも当時の私には何ひとつ将来のビジョンなんて思い浮かばなかった。職業も、家族の有無も。唯一思い浮かんだ像が、にこにこ笑うかわいらしい老婆だった。
そんなことを思い返すきっかけがあった。
多くの酒類ラヴァーが同じ道を通ると思うのだけど、私もこの数年ずっと夢想していた。自分が生まれた年に蒸留されたウイスキーを、自宅の棚に加えること。
先日、ついにその購入に踏み切った。5万円程度を予算に、我が家に招き入れたのはグレンタレット 26年。コレクター的には「かわいらしい」予算感かもしれないが、これまで1.5万円くらいのボトラーズものをドキドキしながら手にしていた私からすれば、一大決心を要する決済となった。
なにせ、自身の誕生日が近いのだ。
当日の夜には、このウイスキーの特別な価値を共有できる仲間たちを呼ぶことにした。秩父ウイスキー祭に例年付き合ってくれる大学時代からの親友。Facebookにウイ検2級を取ったと書いていた新卒同期。中学時代の悪友。みんな私と同じ、ウイスキーを愛する1986年生まれだ。
まだ開栓前だが、重厚感のある箱を眺めながら、このウイスキーのある未来を考える。
毎年誕生日にハーフで飲めば、40年くらい飲める計算。私の顔は年々幼少期の写真の中の母に似てきているので、きっと70の私はいまの母の顔をしているに違いない。悪くない、というか、70の母は、結構かわいい。私もあの雰囲気になるかな? ちょっとくすぐったく笑ってしまう。
あっ。
冒頭に記した夢を不意に思い出したのだ。「かわいいおばあちゃんになりたい」そう言っていたけど、どんな風に自分が歳を重ねていくのか、やっぱり想像は全くついていなかった。
それが急に繋がった。これからウイスキーが紡いでいく40年、そして母に巡らせた思いが、初めて「かわいいおばあちゃん」といまの自分に、一本の線を結んでくれることとなった。
せっかく箱が付いているのだし、蓋の裏に、年表をつけることにしよう。
34歳からスタートし、75歳まで続く年表。その年に感じたテイスティングノートと、その年にあった印象的な出来事、そしてその日の素直な感情を書き記していこうと思う。きっと数年後にはこそばゆくて目も当てられなくなるだろうけど……
このボトルと迎える75歳の、かわいいおばあちゃんになった私。ずっとお酒を愛していられるように、健康を維持していないとね。そのためには日常の飲酒は適量に。年に一度開けるボトルと「誕生日ノート」が、きっと毎年私を戒めてくれることになるだろう。
この8月11日、友人たちと最初のノートを記すのが、なんだかとても楽しみになってきた。