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蒸留所を通じて見る世界:オーストラリアのワインとビールの伝統から生まれる超新星 スターワード蒸溜所

オーストラリアのウイスキーは、1992年設立のタスマニアのラーク蒸溜所を皮切りに、国中の至る所に蒸留所ができています。各蒸留所の想いやこだわりが込められたウイスキーは飲む人それぞれの琴線に触れるものがあると思いますが、皆が口を揃えて言うだろうことは、「高い!!」です。

オーストラリアでは、少量生産や遠隔地からの資材調達等による高コスト体質に加え、飲みすぎ防止の観点から導入されているアルコール度数税Volumetric Taxがあるからです。これはアルコール度数が高ければ高いほど税金が高くなる仕組みであり、純アルコール1ℓあたりに対し、約90豪ドルがかかります。700ml 43%のウイスキーの場合ですと、1ドル75円換算で三千円弱が加わります。

そんな中、『もっと気軽に、もっと自由に楽しめるオーストラリアならではのウイスキーを造れないか……』という想いをもって生まれたのがスターワード蒸溜所です。

スターワード蒸留所外観

メルボルン在住のオーストラリア人の友人が、来日時に持ってきてくれたボトルに魅了され、2019年10月に蒸留所の見学を申し込みさせていただきました。遠路はるばるくるということで、大変ありがたいことに、普段は見せていないエリアも組み込まれたマンツーマンのツアーでした。

スターワード蒸溜所の歴史

スターワード蒸溜所の創設者であるデヴィッド・ヴィターレ氏は、メルボルン在住のイタリア系移民らしく、みんなでワインやビールや食事を楽しむ大家族に育ったそうです。そんな彼はeラーニング事業を展開する会社を経営していましたが、趣味のビール造りを本格的に行うべく、2000年にタスマニアを訪れました。そしてメンターであるタスマニア(今ではオーストラリアの)ウイスキーの父と呼ばれるラーク蒸溜所のビル・ラーク氏に出会い、ウイスキーの多様性に触れ、ウイスキー造りを志すようになりました。この地でラーク氏のもと3年間ウイスキー造りを経験しています。

タスマニアで造られるウイスキーは素晴らしいものと確信していましたが、一方で気軽に飲める価格のものではありませんでした。そこでオーストラリアだけでなく、世界中のみんなに飲んでもらえるウイスキーを造りたいという想いにかられたそうです。

また、もう一人のメンターがジャックダニエルのグローバルブランドディレクターであるクリス・ミドルトン氏です。ミドルトン氏に世界市場におけるオーストラリアのウイスキーの可能性について教わり、2004年にNew World Whisky Distillery Pty Ltdという会社を設立。蒸留所の立ち上げにむけて準備を開始し、2007年にメルボルンで満を持して設立したのがスターワード蒸溜所です。

設立早々にリーマンショックによる不況がありましたが、すぐにキャッシュを生み出すジン製造には手を出さず、今に続く革新的な製造方法とメルボルンの立地を活かしたウイスキーにより、世界的な名声を得ました。2015年からは酒類業界最大手である英・ディアジオからの一部資本参加を得ており、年間生産量も25万ℓとオーストラリアの蒸留所としては大きく、現在も急成長を続けています。

スターワード蒸溜所の製造方法 ニューメイク造り

スターワードのウイスキーの特徴は、蒸留所から1日以内のところで調達した原料でオーストラリアらしさを追求した製造を行っていることです。

オーストラリアらしさの追求としてのこだわりは醪造りです。メルボルンは元々ビール文化が根付いています。創業者も当初はビールの製造を考えていたこともあり、自分たちの追求する香味を有する醪造りに心血を注いでいます。

そのため、メルボルン近郊で栽培された大麦は、ウイスキー用ではなく、ビール用のものを使用しています。また、酵母もブリューワーズイーストを中心として、ディスティラーズイーストも配合し、ステンレス発酵槽で約3日発酵させています。その結果、一般的にはピルスナータイプのビールのような色味の醪になるところ、スターワード蒸溜所ではアンバーエールやペールエールのような濃い色味になります。この醪を飲ませていただきましたが、その強いこだわりもあって、いかにも麦の味わいがしっかりとしていました。

蒸留器

蒸留器については、蒸留所の拡張に伴い新調され、イタリアのフィリッリ社によるカスタマイズされた蒸留器を使用しています。その蒸留器の兜の中には、ワーム式のコンデンサーが内蔵されており、冷却により還流を増やすことで造り分けも可能となっています。ゆっくり蒸留し、しっかりハートをとって造られたニューメイクは、リッチで濃厚なバナナのような味わいがするなど完成度が高く、期待感をもたせる味わいでした。

スターワード蒸溜所の製造方法 熟成

熟成庫

そして圧巻なのが樽による熟成です。使用する樽は、メルボルン近隣にあるワイン産地として有名なヤラバレーや、シドニー近くのハンターバレー等50以上のワイナリーから直接買い付けています。オーストラリアのワイナリーは、それぞれに味の志向やポリシーがあり、また国内市場向けと主要輸出先であるアジア市場向けでは味わいの方向性が異なるそうです。それらワイナリーの樽を仕様(ブドウの品種、樽のトースト、チャーの具合等)で区分けし、内側を蒸気やチャーで簡単に洗浄し、蒸留所に届いて3日~1週間以内にはニューメイクを詰めるそうです。そうすることで、ワイン樽のフレッシュな果実の味わいを最大限に引き出せるそうです。

それらの樽は、1日の気温差が20℃の日もあることから『一日に四季がある』というメルボルンの過酷な環境で熟成させていることから、天使の分け前は最大15%と高く、急速に熟成が進むそうです。そのため、ウイスキーは3~4年で熟成のピークを迎えるそうです。ちなみにオーストラリアの法定熟成年数は2年です。

スターワード蒸溜所のウイスキー

蒸留所見学をしっかりさせていただいた後、期待で胸が膨らむ試飲の時間。

最初に飲ませて頂いたウイスキーは、フラグシップの「Nova」です。ワイン樽熟成の3~4年の原酒をステンレスタンクでマリッジさせて、バッチ毎にリリースしています。香り立ちは、フレッシュでフルーティーな紫芋の焼酎を思わせ、味わいはラズベリー様で華やかでスイスイ飲めてしまいます。

また、かつてはオーストラリアン・シェリーと言われ、現在は規制によってアペラと呼ばれる酒精強化ワイン樽の原酒で造られた「Solera」は、わかりやすいリッチなシェリー樽系のウイスキーで、アプリコットなどのドライフルーツのような甘い味わいが特徴的です。最近アペラを造っているところが少なくなってきているため、オーストラリアでは蒸留所および公式通販限定にしているそうです。

このように、原料を地元で調達することで『オーストラリアらしい味わいと手に取りやすさの両立』を実現していますが、もともと創設者がIT業界出身ということもあり、Googleの20%ルールを参考に『普段とは異なるウイスキー造り』を行うことで、可能性の更なる追及を行っています。洋上での熟成も行うなど、挑戦的なウイスキー造りも行っています。

このコンセプトと可能性を更に追求する秘策として2018年にリリースされたのが「Two-Fold」です。大麦より安い原料である小麦をメルボルン近隣の農家から仕入れ、それらを連続式蒸留機で蒸留してワイン樽で熟成させたグレーンウイスキーを造ります。その小麦グレーン原酒6割と「Nova」用モルト原酒4割をブレンドして仕上げています。その味わいは、小麦のグレーンウイスキーらしいオレンジ系の甘さとワイン樽のベリー系の酸味の融合が図られており、アルコール度数40%にも関わらず飲み応えがありました。

スターワード蒸溜所の可能性

蒸留所としても様々な工夫をもって造り上げた『手に取りやすいオーストラリアらしいウイスキー』として、ストレートだけでなく、もっと自由で気軽な飲み方も提案しています。併設のバーでは、様々なカクテルが提供されています。特に「Two-Fold」で作られたオールドファッションドは、そのオレンジ様とベリー系のハーモニーが絶品でした。また通常の熟成期間を超えるシングルカスクもリリースされており、これらは樽と原酒の個性との相乗効果により、素晴らしく深みのある味わいになっていました。カジュアルドリンカーからコアな愛好家まで、様々なウイスキードリンカーを魅了しています。

一通りの見学、そしてウイスキーの試飲を通じて、改めてスターワード蒸溜所にしかできないスタイルが確立されていると実感しました。新しいウイスキーの楽しみ方を提示してくれるスターワード蒸溜所、そのフラグシップの名前の通り、ウイスキー界におけるNova(超新星)といえる存在です。ぜひ、バーや家で様々な楽しみ方をしてみてください。不思議な話ではありますが、オーストラリアのアルコール度数税により、日本で購入した方が圧倒的に安いという現象がおきていますので……。

Nova in Barrel final

この記事を書いた人

Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。
Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。