有名なクラシック・カクテルにはそれぞれ、「誕生にまつわる逸話」が伝わっている。しかし残念ながら、後世の「作り話」がさも真実であるかのように一人歩きするケースも目立つ。
有名なところでは「マルガリータ」の逸話。「考案した米国のバーテンダーが、流れ弾で亡くなった恋人の名前を付けた」という話が今なお、各種の文献で定説のように取り上げられており、本当の話と信じてマルガリータを飲んでいる人も少なくない(欧米ではこの説はほとんど無視されているというのに…)。
カクテルの女王と言われる「マンハッタン」も、英国の元首相チャーチルの母で米国人のジェニー・ジェロームが結婚前、「(マンハッタンで開かれた)選挙運動中のパーティーのために考案した」と紹介されることが多いが、後年、チャーチル自身が反証を示しながらこの説を否定している。
「サイドカー」も「パリのハリーズ・バーのオーナー、ハリー・マッケルホーンが常連客のために考案した」との説明をしばしば見かける。ハリーズ・バーがサイドカーの普及に貢献したことに異論を挟む人はいないが、マッケルホーンが自身のカクテルブックで、「(友人でもある)パット・マクギャリーのレシピである」と紹介していることからも、マッケルホーン考案説は間違いであることは明らかだろう。
近年では、「スプモーニ」や「レッドアイ」という人気カクテルも実は、イタリアや米国ではなく、日本で誕生し国外へ伝わったことがほぼ確実になっている(この稿で紹介した5つのカクテルも含め、詳しくは、筆者のブログでの連載「改訂新版:カクテル――その誕生にまつわる逸話」をお読み頂ければ幸いである)。
参考:
改訂新版カクテル――その誕生にまつわる逸話
http://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/