ホントにあった、ウソのようなお話。
「先輩、ドリカム好きでしたよね。コンサート行きませんか?」と、同僚が声をかけてきた。「好き好き! 行く行く!」と身を乗り出すと「ただし、同行者がいます。私の知り合いが2枚買ったのだけど、1人がドタキャンになったのです」と言う。これも何かの縁と、SNSを頼りにさいたまアリーナでその人とご対面。
私より15歳下の、感じのいい女性である。「はじめまして」と挨拶を交わして会場へ。コンサートは予想通り、それ以上に素晴らしかった。
終わって「ビール、ご馳走します」と誘ったのは、素敵な経験へのお礼をしたかったからだ。「じゃあ、私が時々行くところにご案内しますね」と、彼女は新宿の店の名を告げた。
道すがら、驚くようなことが分かった。なんと彼女と私は実家が近かった。生まれた病院が同じ、さらに小中高校まで同じだった。「ひゃー、びっくり!」と、私たちは小さく叫んだ。「こんなこともあるんだね」と、ビールで乾杯した。
好きな作家の話題になった。私が椎名誠のファンであること、自分の本を椎名さんに送ったら、思いがけず週刊誌のエッセイで紹介してくれて飛び上がるほど嬉しかったことなどを話したその瞬間、ジョッキを持った彼女の手が止まった。
「……その椎名さんがほら、ほら、いま、後ろを通ってます!」
彼女の計らいで店主が椎名さんをテーブルに連れてきてくれた。あこがれの人を前にして私はすっかり舞い上がってしまい、やたらにビールを飲んで酔っ払った。椎名さんもビールを豪快に飲んだ。夢のようだった。
好きなアーティスト、好きな作家、他人とは思えない友人に会った、この幸運な1日を今も時々思い出しては、頰をつねってみる。