ジンは、どのバーにも必ずと言っていいほど用意されています。カクテルのベースとしてなくてはならないお酒です。
ジンはジュ二パーベリーやその他のスパイス、ハーブ、柑橘類の皮の風味を効かせた蒸留酒です。その製法を踏まえるとフレーバード・ウォッカの一種と言えるのではないでしょうか。
ここ数年、世界中でジンを造るメーカーが飛躍的に増えてきて、空前のジンブームが起こっています。これは小規模のクラフト蒸溜所の設立ラッシュによるものです。ジンはその香りの元となるボタニカルに、地元のものを使うことなどで個性を出しやすいという特徴があります。そのため多くの蒸留所がこぞって、ローカルで個性的なジンを生産しているのです。
まずは定義や製法、ボタニカルの特徴など、今ブームであるジンの世界を覗いてみましょう。
ジンってどんなお酒?ジンの定義と種類
ジンの法規定については、現在EUで以下のように定められています。
①ジュニパーベリーの香りを主とする
②瓶詰アルコール度数は37.5%以上
③3つのカテゴリー「ジン Gin」「蒸溜ジン Distilled gin 」「ロンドンジンLondon gin 」に分ける
ジンの3つのカテゴリーについては、上記の①②以外にそれぞれ以下のような規定がなされています。ここでは、ジンよりもより広いカテゴリーであるジュニパー・フレーバード・スピリッツ・ドリンクについてもふれてみます。
ジュニパー・フレーバード・スピリッツ・ドリンク
(Juniper-flavoured spirit drinks)
- 農作物由来のエタノールやグレーンスピリッツなどにジュニパーベリーのフレーバーを付加したもの
- ボトリング時の最低アルコール度数は30%
- 天然香料または人工香料などが使用可で、ジュニパーベリーの風味が認識できること
ジン(Gin)
農作物由来のエタノールにジュニパーベリーのフレーバーを付加したもの。
→ 蒸留による抽出が必要なく、単純な混合でも構わない
- 天然香料もしくは人工香料などが使用可
蒸溜ジン(Distilled Gin)
- 農産物由来エタノールを使用し、ジュニパーベリーやその他のボタニカルを伝統的なジン用蒸留器にて再蒸溜したもの
- 天然香料もしくは人工香料にて香味を付加したスピリッツを別途添加してもよい
ロンドンジン(London Gin)
- 農作物由来の高品質エタノールを使用し、伝統的な蒸留器にて天然のボタニカルのみを使用して再蒸溜したもの
- 留液の最低アルコール度数は70%
- ボトリングの際、少量の糖分の添加は可能だが、着色料は添加不可
- ロンドンと謳っているが、産地の規定ではない
ジンの製造方法
ジンは、一般的に次のような流れで造られます。
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ベースとなるニュートラル・スピリッツは、より純度の高いものを用意し、それに加水することで、よりボタニカルの香味を抽出しやすいアルコール度数にします。このニュートラル・スピリッツの原料に何を使うかで、よりジンに個性が出ます。通常は小麦やトウモロコシなどの穀物ですが、カルバドスの産地ではリンゴを使ったジンも造られています。
ボタニカルの抽出に関しては、主に2通りの方法が用いられています。通常はすべてのボタニカルを全て混合して香味を抽出しますが、京都の「季の美」のようにボタニカルをいくつかに分けて、それぞれ抽出したものをブレンドするジンもあります。
①浸漬法
伝統的なスチルのポットにボタニカルと60%程度のスピリッツを投入し、数日程度浸漬する。その後蒸留し、留液を得る
⇒香ばしく力強いフレーバーのジンが得られる
ボタニカルがポットに焦げつきやすく、手入れに手間がかかる
②バスケット抽出法
伝統的なスチルのラインアーム部に金属製のバスケットを設置し、その中にボタニカルを詰める。ポットに60%程度のスピリッツを投入し、これを蒸溜することで、アルコール蒸気にフレーバーを付加させる。
⇒軽やかで華やかなフレーバーのジンが得られる。
手入れが簡単。蒸留器のトップ部分を取り換えることで、ウイスキー製造と併用できる。
ボタニカルジンとは?代表的なボタニカル
ジンやベルモットなどで使われるハーブやスパイスのことをボタニカルと言います。
ジンでは、ジュニパーベリーを必須として、5~6種類から数十種類が使われています。種子や木の根のスパイス、ハーブ、レモンやオレンジなどの柑橘類の皮を乾燥させたものなどです。以下に、代表的なボタニカルを挙げます。
クラフト系と呼ばれる小規模メーカーによるジンでは、地元のローカルなハーブなどを使うことで、個性的なジンを造りだしています。
①ジュニパーベリー
フレッシュでウッディな甘さのある松葉様のハーバルな香り
②レモン・ピール
軽やかでフレッシュで甘さのあるシトラスの香り
③オレンジ・ピール
甘さとフレッシュ感があるフルーティーなシトラスの香り
④アンジェリカ
スパイシーなムスク様ハーバル・ウッディな香り
⑤コリアンダー・シード
甘くてウッディ、スパイシーなキャンディ様のアロマチックな香り
⑥カルダモン・シード
カンファー様の清涼感の後、多少メディカル・バルサミック・ウッディ感のあるスパイスの香り
⑦オリス(イリス)・ルート
繊細で甘いフローラル感のあるウッディな香り
⑧ジンジャー
温かみはあるがフレッシュでウッディなスパイスの香り
⑨リコリス
さわやかな清涼感のある甘くアロマチックな香り
⑩シナモン
甘くてしっかりとした温かみのあるスパイスの香り
ジンを使ったカクテルいろいろ
ジンはそのまま飲んでも楽しいのですが、カクテルにすることでより一層その世界が広がります。ジントニックをはじめ、マティーニやホワイトレディーなど、さまざまなカクテルが造りだされ、多くの方々に愛飲されています。
ここでは代表的なカクテルをご紹介いたしますので、ぜひバーで楽しんでください!
ジントニック
バーに入って、「とりあえず…」というとこのカクテルですね。ただ、ベースのジンを何にするのかによって味わいはガラッと変わります。いろいろとジンで試してみてくださいね!
マティーニ
言わずと知れたカクテルの王様ですね! ジンとドライ・ベルモット、シンプルゆえ奥の深いカクテルです。ジェームス・ボンドもお気に入りでしたね。
ギムレット
マティーニ同様、ハードボイルド系の映画などで多く飲まれていますね。ジンとライム・ジュースの爽やかなカクテルです。
青い珊瑚礁
ジンとミントの香りがマッチした爽やかでやや甘い味わいです。鮮やかな碧の液色に、添えられた赤いチェリーが映える、なんとも美しいカクテルですね。
シンガポールスリング
シンガポールのラッフルズホテル生まれのカクテル。さくらんぼのリキュールの甘さとジンがマッチした飲みやすい味わいで、見た目もきれいな一杯です。
ネグローニ
イタリアはフィレンツェ生まれで、ジンとスウィート・ベルモット、カンパリとハーブ系のお酒を使う香り高いカクテルです。オレンジ・スライスがアクセントとなっています。
パリジャン
マティーニにカシスのリキュールを少しプラスしたやさしい味わいで、鮮やかな赤色が印象的。パリっ子をイメージしたおしゃれで小粋なカクテルです。
パラダイス
文字通り「楽園」のような華やかで優しい甘口カクテル。アプリコットリキュールとオレンジジュースの相性がよく、まろやかな風味を楽しめます。
ジンこぼれ話
ジンの歴史
11世紀頃のイタリアでは、すでにジンの香味の素となるジュ二パーベリーを主体とした蒸留酒が造られていたとされています。現在のジンの起源とされるのは、17世紀半ばにオランダで造られた解熱・利尿作用のある薬用酒です。その後イギリスに伝わり、一般にお酒として普及することとなり、その際に「ジン」と呼ばれるようになりました。
オランダ産でもロンドンジン?
ロンドンジンと銘打っていますが、特にロンドンで造らなくてはならないということではありません。あくまで名称の問題で、バーボンウイスキーがケンタッキー州バーボン郡でなくても、全米中で造れるのと一緒です。実際、大手でロンドンに工場があるのはビーフィーターのみで、その他のメーカーはスコットランドやオランダなどでも造っています。
ロンドンっ子はドライ好き?
ロンドンジンの多くは、LONDON DRY GINと“ドライ”を入れていますが、これについては特に規定はありません。ロンドンジンをクリアした段階で使用が可能となっています。
近年のジンブームのきっかけ
ここ数年のウイスキーブームを受けて、マイクロディスティラリーと呼ばれる小規模な蒸留所が増えてきています。
ただウイスキーは熟成に時間がかかるため、キャッシュフローの面から難しい部分があります。そこで多くの蒸溜所では、より時間のかからないジンに注目して、製造販売しているのです。蒸留器を工夫することでウイスキーと造り分けをし、ローカルなボタニカルを使って個性を出しています。