ジンの元祖といえばオランダで生まれたジュネヴァです。
ジュネヴァは現在最も主流で爽やかな香りのするドライジンと違い、麦の豊潤な香りが特徴です。
アメリカにおける禁酒法により製造が簡単なドライジンにその座を奪われるまで、ジンといえばジュネヴァが主流でした。現代でこそジンベースのカクテルにジュネヴァを使用することは稀ですが、禁酒法以前のカクテルレシピではジンカクテルのベースにジュネヴァを用いるのは珍しいことではありませんでした。
そこで、実際に過去のカクテルブックを見返して、当時のレシピを振り返ってみましょう。
ジュネヴァ最古期のレシピ
今回、レシピの参照に使用したのは「EUVS Digital Collection (http://euvslibrary.com)」内の「EUVS Vintage Cocktail Books」という無料の電子図書館です。
フランス・ベンドール島にある、酒類博物館の資料を元に作られています。古いカクテルブックは貴重なため高値で取引されているものも多く、手が届きにくいものの、こちらのWebページでは昔の貴重な資料を手軽に閲覧することができます。
まずは最古期のバーテンダーズマニュアル、そしてカクテルレシピとして有名な1862年に刊行されたJerry Thomasの「The Bartender’s Guide」を参照してみましょう。
こちらのジンカクテルの項目内の一例としてジンフィズを見てみると、指定されているのは「Gin」(図1)。
こちらには他の項目も含めジュネヴァの記載はありませんでした。しかし、同時期に同じくJerry Thomasが著している「How To Mix Drinks or The Bon-Vivant’s Companion」を見ると、レシピのページにジンの項目が。そこには「Domestic Gin」、「English Gin」に並んで「Holland Gin」が記載されています(図2)。
やはりジュネヴァもジンのメジャーなレパートリーとして扱われていたようです。
オールドトム・ジンを使用したレシピ
次は1884年に刊行された George Winterの「How to Mix Drinks. Bar keeper’s Handbook」です。
こちらのジンフィズのレシピには、オールドトム・ジンが使用されていました (図3)。
現在のドライジンよりも加糖されたオールドトム・ジンが人気だった時代、ジュネヴァは使用されていないと思いきや、その後のページにある「John Collins」というカクテルにはHolland Ginの指定がありました (図3)。
このカクテルブックではその他のジンカクテルにもHolland Ginが指定されており、やはりドライジンよりもジュネヴァがカクテルシーンで活躍していたことが見て取れます。
ジンフィズにも使われたジュネヴァ
最後に1888年に刊行された有名なカクテルブック、Harry Johnsonの「Bartender’s Manual of How to Mix Drinks」を見てみましょう。
こちらのレシピをみると、なんとオールドトム・ジンで作るトムコリンズやジンフィズなど以外のカクテルに「Holland Gin」、つまりジュネヴァが使用されています (図4)。
ジュネヴァの存在感の大きさを感じますね。
ジンの元祖「ジュネヴァ」の香りをカクテルで楽しむ
今回のコラムでは、昔のカクテルブックを参照することで実際にジュネヴァが1800年代当時のカクテルシーンで多用されていたことを確認することができました。全てのカクテルブックにジュネヴァが指定されていたわけではありませんが、当時のジュネヴァの存在感を知っていただくことができたでしょうか。
現在のカクテルシーンは多くのバーテンダーの方々がクラシックカクテルのツイストカクテルを多く生み出しています。ツイストカクテル全盛期といっても過言ではないでしょう。
私はジュネヴァを使用してクラシックカクテルを作ったり、ツイストカクテルを作ったりすることで、新たなカクテルの可能性を追求できると考えています。
近年はクラフトジン全盛期であり、新たな香りのジンが楽しまれていますが、ジンの元祖「ジュネヴァ」の香りをカクテルで楽しむのはいかがでしょうか。