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スイスアブサンと個人蒸留家のお話

absinthe(アブサン)発祥の地とは、スイス・ヌーシャテル州ヴァル=ド=トラヴェール地方だ。スイス北西部、フランスとの国境線にある郡。スイスアブサンの禁制中(1910年〜2005年)も脈々とアブサンを製造する文化が残っており(当然密造である)、現代においてもアブサン個人蒸留家が多く存在するエリア。

今回はそのお話し。

スイスアブサンの特徴はブランシェ・スタイルという、緑ではない透明なアブサンだ。通常アブサンはグリーン・フェアリー(緑の妖精)と謳われ、映画や小説などでも度々耳にする固有名詞。しかし、ここスイスでは透明な白が伝統的スタイルだ。

では、ブランシェ・スタイルの伝統はいつからなのか?

最初からブランシェ・スタイルではない。スイスは1910年、国内においてアブサンの製造、販売を法律で禁じた。それ以前のスイスアブサンは、フランスと同じくアブサンの代名詞である緑色であった。1910年のスイスアブサン禁制後もヴァル=ド=トラヴェール地方では密造であるが、個人レベルでアブサンの製造は続けられていた。緑色がアブサンの代名詞ならば、透明にすれば良い。さすれば緑色でなければ、それがアブサンとは誰も思わない。奇しくもアブサン解禁後の現代においてスイスアブサンの特徴、伝統が密造時代を経てブランシェ・スタイルへと変貌したのだ。

先に申し上げたようにヴァル=ド=トラヴェール地方では、今でも個人アブサン蒸留家がとても多い。人口わずか10000人ほどであり、冬は雪に閉ざされるエリア。ただ、そこにはアブサン製造のライセンスを持っているアブサン蒸留所が多数あり、それと同等くらいにライセンスを持たず製造する人々が存在している。

ライセンスがないと密造にあたるのではないか?

と、日本にいるとそう思ってしまう方もいるかもしれないが、ここスイスでは個人レベルで申告をすれば自家蒸留は年間400Lまで生産が可能である。

ここ、ヴァル=ド=トラヴェール地方では農家をしながら、役場に勤めながら、薬局で勤めながら、趣味でアブサンを造る方々が存在する。ヴァル=ド=トラヴェールのとある酒屋に行けば、個人蒸留家のアブサンを陳列させて販売しているアブサンショップがある。ラベルのインフォメーションは、その人の家の住所と造った人の名前、コンタクト先のメールアドレスのみとなかなか尖っている。いわゆるスイス国外にはオフィシャルに出回らないアブサンだ。私はこのクラフト感がたまらないのだ!

この記事を書いた人

鹿山 博康
鹿山 博康https://ameblo.jp/kayama0927/
1983年生まれ。20歳の時にバーテンダーを志す。2013年7月独立し、アブサン・ジン など薬草酒を中心としたバー、Bar BenFiddichを開業する。自身の畑を外秩父の麓・ときがわ町に所有し、そこで採取したボタニカルをカクテルに使う。2015年ボタニスト・ジン・フォリッジ・カクテルコンペティション 優勝。2016年『drink nternational』より、「AsiaBest Bar 50」にて21位に選出される。
鹿山 博康
鹿山 博康https://ameblo.jp/kayama0927/
1983年生まれ。20歳の時にバーテンダーを志す。2013年7月独立し、アブサン・ジン など薬草酒を中心としたバー、Bar BenFiddichを開業する。自身の畑を外秩父の麓・ときがわ町に所有し、そこで採取したボタニカルをカクテルに使う。2015年ボタニスト・ジン・フォリッジ・カクテルコンペティション 優勝。2016年『drink nternational』より、「AsiaBest Bar 50」にて21位に選出される。