私はアルコールとのマリアージュでチョコレートのレシピを考える際に、高い頻度で使用する食材があります。トンカ豆、シナモン、アニス、タラゴンなどがそれにあたります。
これらにはそれぞれ、トンカ豆=クマリン、シナモン=シンナミックアルデヒド、アニス=アネトール、タラゴン=エストラゴールといった甘い系統の香気成分が多く含まれ、その共通項は「フェニルプロパノイド」という、植物が光合成する際に紫外線による酸化から身を守るための化合物の仲間であることです。
フェニルプロパノイドはフェニルアラニンというアミノ酸を素にして生合成される香気成分の仲間達なのですが、その中には樽の成分でおなじみの「リグニン」や「リグナン」の素となる化合物も多く、樽熟させるアルコールの風味に大きな影響、特に甘い風味を与えます。
また、トンカ豆やシナモンに多く含まれるクマリンはシェリー酒にも多く含まれており、シェリー樽熟成の甘めのウイスキーにはトンカ豆、シナモンの風味がよく合います。
フェニルプロパノイドに属する香気成分同士の相性として、たとえばアニスのアネトール、タラゴンのエストラゴールなどは化学構造式でも非常によく似ており、そのせいかアニスとタラゴンを組み合わせて使用すると、意外と香りの相性が良いことに気づきます。
化学式や知識だけに捉われず実際に味わってみてどう感じるか、感覚が一番大事なのはもちろんのことですが、私が推奨するマリアージュにとって重要なのは「共通の香気成分の重なり具合と味の強弱のバランス」です。 このように植物の生態やその特性からアルコールとの共通香気成分、相性の良い食材や組み合わせを探ってみるのも面白いと思います。