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←Asheville(アシュビル)
文:ジミー山内
ノース・カロライナはムーンシャインのゆりかご。
特にアシュビルのようにアパラチアに近い地域はなおのこと。ビールやワインと違い、家庭でアルコールを蒸溜しスピリッツを作ることはアメリカでも違法だが、この地域の人と話をしてみると、最近まで多くの家庭で細々とであれ密造蒸溜が行われていたのがわかる。
そのまま消えるかのように思われた同文化だが、クラフト・ビールに続くクラフト・スピリッツブームによって今度は合法的な形で復活を遂げようとしている。まさに起死回生。
その一つがアシュビルの郊外、ビルトモア・エステート近くにあるEda Rhyneだ。
オーナーのRett Murphyはアシュビル周辺でバーを経営し、そのかたわらで長年祖父が行なっていたムーンシャインを復活させることを夢見ていたという。クラウド・ファンディングで得た資金で今年ついに蒸溜所をオープン。彼が作るのは純粋なムーンシャインではなくノッチーノやアマロと呼ばれる薬草種。アパラチア山脈には2000を超える野草が生息するが、野山を歩きそれらを採取して使用しているのだという。
蒸溜所にはMason Jarに入った原材料が所狭しと置かれている。まさに感性に訴える味。そんな表現がぴったりの蒸溜酒ばかりだ。NYのバー業界で大絶賛されたというEda Rhyneのスピリッツだが、あまりの少量生産のためほとんど地元でも出回っていない。いつか日本に上陸することを願うばかり。
他にも数多くの蒸溜所がアシュビル周辺にはあるが、多くで共通しているのがこの地域に息づく自律・自助の精神。多くの蒸溜家はそれ以前、蒸溜はおろか醸造すら経験したことがないという者ばかり。それを気負うことも気兼ねすることもなく、まさに自分で考え抜いた理想の蒸溜酒を目指して試行錯誤を繰り返している。
蒸溜器も奇抜なものばかり。中には発酵槽から蒸溜器、果てはボイラーまで廃材を使って作ってしまった猛者もいるほどだ。
日本人的に考えれば、どうなの??というところかもしれないが、どれも素晴らしい酒精ばかりだ。
日本のクラフト・スピリッツ業界はとかくスコッチの伝統や技術、器材に目が行きがちだが、ぜひノース・カロライナに来てこのアメリカン・クラフトの真髄を心いくまで体験してほしい。
コラム:Food
BBQ
ノース・カロライナ料理のといえばなんと言ってもBBQ。
日本でBBQというと、甘くてこってりとしたテキサス風ソースのリブなどが有名だが、アメリカのソール・フードであるBBQには地域性があり、それぞれが「ご当地BBQ」に強いプライドを持っている。
中でもノース・カロライナは日本ではほとんど知られていないが、実はBBQのメッカ。豚の一大産地とあって、BBQは豚肉が主流。中でも丸々一頭を何時間もかけて焼き上げ、細かくほぐしたPulled Porkに、ビネガーベースのサラッとしたソースをかけて食べるのが一般的(厳密にいうと州内の地域によって異なるソースがある)。また牛肉のしぐれ煮のような料理もある。
どれも比較的さっぱりしていて日本人にも食べやすいはずだ。他にもお隣サウス・カロライナのマスタードベースの黄色いBBQソースも有名。
チキンと相性がバッチリ。アシュビルに行ったらぜひブルワリー・ホッピングの合間に文字通りブルワリーに囲まれたBuxton Hallに寄ってみてほしい。シャーロットのMidwood Smokehouseもオススメ。どちらもノース・カロライナの味を堪能できるはずだ。
Hole Doughnuts
Ashevilleの朝食といえばここで決まり。
アメリカ人はドーナッツが無類の好物だが、ここのドーナッツは手作りのdoughを注文を受けてから揚げてくれるというこだわりよう。
Asheville郊外、厨房とイートインスペースに間仕切りもないその空間は、いかにも田舎といった質素なもの。でもそのセンスの良さは、店内に入った瞬間に女性でなくとも声を上げてしまうほど。
手作りとあって、かなりいびつで味も素朴だが、ドーナッツを囲むアメリカの原風景がここにあるといっていい。