History in a glass No4
ヴェネツィア レースグラス
イタリア北東部、ヴェネツィアのムラーノ島で作られるガラス工芸の最高峰「ヴェネツィアングラス」。
高い装飾性や空中で吹き上げる極薄の技法が特徴的で、高度なテクニックが用いられる。その中でも「レースグラス」と呼ばれるレースをガラスに閉じ込めたようなグラスがある。
円筒状の型の側面に、錫を混ぜた乳白色のガラスと透明なガラスを流し入れ、型から出してねじりながら引き延ばすと螺旋状のレース棒が出来あがり、それを細工したものがレースグラスだ。
均等のとれた優雅なグラスで「ヴェネツィアの秘宝」とも称される。
この技術は16世紀には既に確立していたようで、江戸時代中期には日本にも伝播している。実際に「びいどろ」と呼ばれる和ガラスのステムにレースの技法が施されているものも現存する。
さて、写真のレースグラス、小ぶりでリキュールグラスとして使用する事が多い。近くで見るとレースが交差して美しく、液体が入ると片方のラインだけが写し出されるので、これもまた趣きがある。濃い色のリキュールが最適で、なにを飲んでも美味しく感じる。
このグラスはずいぶんと前に懇意にしている骨董店にて一目惚れをし、購入を決意したものの、2脚セットであったため逡巡した。そこでグラスに傾倒している友人のバーマンに「レースグラスの出物があるが一緒に買わないか」と持ち掛け、快く応じてくれたので私の手元にこの1脚のレースグラスがある。ヴェネツィアングラスで所有しているのはこのグラスだけ。増やしていいものかどうか悩むところである。