Tasting Vocabulary 101
硫黄
ヒトの嗅覚は危険な物質が放つ匂いに特に鋭敏だと言うが、硫黄もその一つ。「腐った卵」とか「ゴムタイヤ」、「擦ったマッチ」はたまた「煮込み過ぎたキャベツ」など、多くの場合あまり歓迎される匂いでないが、面白いのは国民性が比較的強く出る点だ。
個人的な経験だが、日本人にはとかく敬遠されがちなこれらの匂いも、欧米人、特に米国人は「Meaty」つまり肉汁のような匂いとして肯定的に捉えることも。「クリーンな硫黄臭」というものも確かにあって、ウィスキーにボディー感を与えてくれたりする。「ビッグなウィスキー」が好きな米国人にはぴったりなのかもしれない。
ちなみに、硫黄化合物はその由来や蒸溜釜の素材である銅との触媒反応、さらに樽内での酸化反応など、他の薫り成分に比べてその科学的理解が比較的良く進んだ物質でもある。それもこれも人間の嗅覚が硫黄に対して敏感なせいなのかもしれない。
High Gravity
Yeast Starter
数あるMason Jarの使い方の中でも、最もcanning jarらしい使い方がこれ。
買ってきたままの酵母は量が少なく休眠中のため、麦汁に加えてもしばらくは増殖や活性化に時間を費やしてしまう。でも腐敗などを考えれば酵母にはすぐにでも活動してもらいたいもの。そこで仕込みの数日前に麦汁を別途少量用意し、それで酵母を増やしておこうというのがyeast starterだ。水にモルトエキスを溶かしただけの即席の麦汁だが、雑菌除去のために煮沸、さらに酵母が投入できる温度まで素早く冷やす工程はまさにビールの仕込みそのもの。2リットル程度とはいえ、本仕込み数日前にこれは結構しんどい。
そこで高濃度の麦汁をMason Jarを使って一気に数本分canningしておこう。Canningは完璧な滅菌方法だし、自然冷却によって密閉されることで一年以上保存がきく。Starterが必要になった時はボトルウォーターで希釈して直接酵母を加えて完了だ。
時代の証人
Elliot Ness
エリオット・ネスと聞いて映画「アンタッチャブル(The Untouchables)」をすぐに思い浮かべるとすれば、40代以上かそれなりの映画好きかというところだろうか。禁酒法時代のシカゴを舞台に、汚職はびこる警察組織に悪戦苦闘しながらアル・カポネを追い詰めていくストーリーは、典型的なアメリカ勧善懲悪物語といったところだが、底本となったのは晩年のネスがライターに対して行った口述を基にして作られた自伝。残念ながら映画では多くの設定が変更されているが、一方でネスがライターに語った内容も裏が取れないものが多く、映画はもとい本の中身も真に受けるのはやめた方がいいかもしれない。
むしろ興味深いのはネスが率いたThe Untouchablesが属した酒類取締局だ。1886年の設立当初は米国財務省の徴税部門である内国歳入局(現在の内国歳入庁の前身)内の一組織だったが、これは酒税徴収の観点から密造者を取り締まっていたためだ。ところが1920年に始まった禁酒法によって同局が独立性を持った捜査機関として位置づけられることになる。密造・密輸酒を巡ってアル・カポネを始めとした組織犯罪が蔓延したこの時代、司法省に移管され更にはFBIの一部門にまでなっている。禁酒法の廃止とともに内国歳入局に戻されるが、機関銃を含む重大な銃犯罪が禁酒法時代に激増したこともあり、1938年に連邦火器規制法が施行され、その執行権限が酒類取締局に加えられることに。
なぜ酒類取締局が銃器を?と不思議に思うかもしれないが、これは当時 米国の法解釈では火器売買の直接的な取り締まりが難しく、徴税という形で監視・管理を行おうとしたからだ。1960年代には「アルコール・火器・タバコ局」と名前を変え、次第に強大な捜査権限が与えられるようになる。これが現在の泣く子も黙る超エリート捜査機関「ATF」の由来だ。米国同時多発テロを受けた省庁再編によって、70年の時を経てATFは司法省に再度移動している。