History in a glass No5
ここに19世紀に作られた美しいフランスの工芸品がある。「オランダ景色」と名付けられたこの作品は、いまだに人々を魅了し続ける。
フランス北部ナンシー、鉄鋼業で栄えたこの街は、芸術性の高いアール・ヌーヴォーの街としても知られる。この地を代表する工芸家、エミール・ガレ。彼はナンシーで生まれ育ちガラス工芸の先駆者として名を馳せる。
さて、生まれこそ違うが、ナンシーで育ったドーム兄弟という職人がいる。
ガレとは違った作風でありながらも「エコール・ド・ナンシー」(ナンシー派)に属するまでになる。1889年のパリ博に出展、1897年ブリュッセル万博では金賞を受賞するなど、ガレに負けず劣らずの活躍を見せていくことになる。
アンテルカレールという立体的技法が彼らの特徴で、透明ガラスの層の上に色ガラスを挟み込み奥行きを出すという、特許まで取得した技法が彼らの真髄である。
写真のドームナンシー、残念ながら私の所有物ではなく、友人から拝借した。
リキュールグラス、水差し、ソルト入れ、それからカップ&ソーサー。
息を飲むほど華麗である。このような一流品を揃えるバーにしたいと常々思うが、なかなか難しい。
まずは高価であるという事、繊細故に破損しやすい、「用の美」と言うがこの作品は観ているだけで作り手の心に触れられる。等々。
小さなリキュールグラスは驚くほど軽く、逆さにするとドームナンシーのサインが透けて見える。
誰もいなくなった閉店後のバーカウンターで一人、このグラスを傾ける日が来るのだろうか。