Tasting Vocabulary 101
Pumpkin
ハロウィーン。
この時期アメリカで爆発的に増えるのがパンプキンを銘打った食べ物。クッキーやアイスクリームといったスイーツ類に始まり、シリアルにスープ、はたまたパスタまで、ありとあらゆるものがパンプキンカラー(オレンジ色)に染まってしまう。
当然フレーバーもパンプキンかと思いきや、これが大間違い。
日本でパンプキンと言えば、濃緑の皮に黄色くほっくりと甘いカボチャを想像するかもしれないが、アメリカのパンプキンは食用というより、どちらかと言えば日本のホウズキのような装飾品に近い。あえて食べるとすれば裏ごししてパイに入れるのが一般的。
一見栗きんとんのようだが、それ自体に甘味も薫りもほとんどないため砂糖とシナモンやナツメグ、ジンジャーといったスパイスで味付けをする。これがパンプキン・スパイスだ。つまりアメリカでの「パンプキン味」はあくまでスパイスのこと。
今や500億円規模と言われるこのパンプキン・フード市場、そもそも2003年に登場したStarbucksのパンプキン・スパイス・ラテが始まり。日本でも似たような物が出回るはずなので一度試してみたらどうだろう。
High Gravity
Smack Pack
本格的なビール醸造所であれホームブリューイングであれ、ビールの仕込み自体は半日程度で終わる作業だ。煮出したホップの薫りが漂う麦汁を発酵槽に入れ、酵母を投入すればその日の作業は終了(まぁ、その後に続く大量の器材洗浄は別にして……)。
ホームブリューイングで使う酵母自体はフリーズドライもあるが、最近はスマックパックと呼ばれるものがより一般的。
スマックパックはレトルトカレー大の袋の中に液状酵母と栄養分がそれぞれ分かれて詰められたもの。手のひらの大葉よろしくこの袋を勢い良く叩くと中の包が破れて栄養分と酵母が混ざる仕組みだ。これを仕込み日の朝にやっておけば、麦汁ができる頃には活性化した酵母が出した二酸化炭素で袋はパンパンに。中身をそのまま発酵槽に投入すれば、時を置かずして発酵が始まるというわけだ。
時代の証人
Aeneas Coffey
ウィスキー造りと言えば長らくは大麦麦芽からビールを作り、それをポットスチルとよばれる「ヤカン」で蒸溜して樽に詰めるという単純なものだった。それが19世紀初頭になると複数のヤカンを直結することで純度の高いアルコールを取り出せるようになった。このことは2つの重大な意味があった。
アルコール以外の「不純物」が少なく結果的に味わいが軽くなったことが一点。もう一つは大麦より値段の安い他の穀物が使えるようになったこと。アルコールはアルコール。純度が高ければそれを生み出す原材料の違いはあまり関係がないというわけだ。
当初は単にポットスチルを重ねただけだった新型蒸溜器は、やがてセイロ状に。ビールを上から注ぎ、ザルを滴り落ちる間に下から吹き上がる水蒸気がアルコールを気化して奪っていく。この蒸溜器はビールを上から注ぎ続ける限り休むこと無く蒸溜が行えるため、連続式蒸溜器とも呼ばれている。
その完成形を生み出したのがアイルランドの元徴税官、イーニアス・コフィー。1831年に特許を取得した彼は売り込みを始めるが、地元の蒸溜業者はこの技術革新を頑なに拒絶。一方スコットランドのウィスキー業者はその経済性を見抜き、大麦以外の原材料を使ったいわゆるグレイン・ウィスキーを安く大量に生産していく。ブレンデッド・ウィスキーの発明もそれを後押しした。味・臭いのキツいモルト・ウィスキーに軽めのグレイン・ウィスキーを混ぜたそのスタイルはロンドンを始めとした都会っ子の舌によく馴染んだのだ。
面白くないのはアイルランドの蒸溜業者。それまでアイリッシュ一強だったウィスキー市場は次第に新興のスコッチに取り崩され始め、連続式蒸溜器で作られたウィスキーに対して必死にネガティブ・キャンペーンを張っていく。大麦以外の原材料はイカサマ、連続式蒸溜器は横着、「軽いウィスキー」なぞ女々しい酒、などなど。ようやくコフィーの特許から80年を経た1909年、イギリスの調査機関・王立委員会が報告書を提出。これによって雑穀を使用し連続式蒸溜器で蒸溜し樽熟されたスピリッツがウィスキーと呼べることが公式認定された。これがなかったら現在我々が愉しむ「ウィスキー」の九割は単なる「スピリッツ」と呼ばれていたかもしれない。
アイルランドのKillbergan蒸溜所に現在も残るコフィー型蒸溜器。
これが発明されなければウィスキーはヨーロッパの外れで今も細々と飲まれる「地酒」だったかもしれない。