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蒸留所を通じて見る世界:ウイスキー造りの『革新』と『原点』のハイブリッド KOVAL(コーヴァル)蒸留所

今年の3月末、KOVAL蒸留所のアジア ブランドマネージャーである小嶋冬子氏から「お伝えしたいことがある」と連絡がありました。

小嶋氏は、スコットランド留学時にウイスキーの魅力を知り、製造現場へ飛び込むべく、KOVAL蒸留所へ直接コンタクトを取って単身渡米された強者です。ウイスキーとジンの製造に携わられた後、日本市場を開くために一時帰国され、現在ではアジア・ブランドマネージャーとして、日本を拠点にアジア各国の市場を担当されています。そのキャリアは、NIKKEI STYLEで特集されるという凄い人です。

一回目の見学:KOVAL蒸留所のウイスキー造りにみる『革新』

初めての見学は、2015年3月。計画していた旅程においてシカゴでのトランジット、乗り換え時間が6時間近くあったことから、当時日本へ輸出していなかったにも関わらず、日本語でSNS宣伝していたKOVAL蒸留所にダメ元でコンタクトしました。そこで快くアレンジしてくださったのが小嶋氏でした。

シカゴ・オヘア空港に向けて降り立つ際に窓から見えてくる、海と間違えるようなミシガン湖の大きさ、そして数多くの摩天楼に圧倒されました。こんな大都会にどんな蒸留所があるのかと想像で胸を膨らませながら、電車とバスを乗り継いでたどり着いた指定の場所は、先ほど見たビル群とはうってかわり、閑静な住宅街でした。

なぜこの様なところに蒸留所があるのかと思いながら散策していると、まわりにビール醸造所が多くあることに気が付きました。後で聞いたのですが、蒸留所のあるレイブンズウッド周辺はミシガン湖のふんだんにある良質な水のおかげでビール醸造所が多いのです。

見学時には、小嶋氏はご出張で不在のため、その上司によって見学させて頂きましたが、何より生産棟に入って目に映るその異形の蒸留器に圧倒されました。それが、KOVAL蒸留所が誇るKothe(コーテ)社のハイブリッドスチルだと知りました。

Koval蒸留器

そのスチルは全長7mと高く、ポットスチルと多塔式のコラムスチルで構成されています。また、蒸留の全工程をパソコンで電子制御できるだけでなく、スマートフォンのアプリでも遠隔管理が可能とのことで、時代の最先端を行く革新的な設備であることを知りました。そのスチルから造られるウイスキーは、リンゴを思わせる綺麗でジューシーな甘みと収斂味を感じる味わいでビックリしました。時間の関係上、見学を短時間にせざるを得なくなってしまったことから、再訪することを約束しました。

ニ回目の見学:KOVAL蒸留所のウイスキー造りにみる『原点・製造方法』

第二回目の見学は、2016年4月。今回はこの蒸留所見学が目的で訪問したこともあり、余裕をもって見学をさせて頂きました(小嶋氏は、出張で不在)。原料は、地元イリノイ州を中心としたミッドウェストのものを契約農家から購入。また代表的なトウモロコシやライ麦、小麦、大麦に加え、ミレット(キビ)とオーツ麦、スペルト※※(古代麦)といった、その土地で生育されている様々な穀物を使用しています。またそれらは、すべてオーガニックというこだわりようです。

※日本未発売 ※※日本未発売・終売

発酵は、ステンレス製発酵槽において7~10日かけて行っており、ウイスキー蒸留所としては極めて長い時間となっています。また、醪についてもバーボン等アメリカンウイスキーで一般的なサワーマッシュではなくスィートマッシュという古い製造法をとっています。これにより、KOVAL蒸留所が望むジューシーな甘みを出しているそうです。

熟成期間は、主に4~5年とのことですが、使用している樽がミネソタ州にあるバレルミル社製の約114ℓと小ぶりの新樽であるため、しっかりした熟成感があります。そして、それらウイスキーはシングルバレルでのリリースであり、その味わいにあわせた加水となっています。

なお、スタイリッシュなボトルのデザインは、創業者の妹がデザインしているそうです。

オーガニックな原料、長い発酵時間に古いスウィートマッシュ製法、シングルバレル、一族によるデザイン、そして何よりトウモロコシやライだけでなく、『その土地に生育している穀物を使って造る』というのはウイスキー造りにおける『原点』なのでは? と思うようになりました。

三回目の見学:KOVAL蒸留所のウイスキー造りにみる『原点・人』

三回目の見学は、2018年8月。今回は、出張期間中の休日に通常のツアーを申し込みました(小嶋氏は、例のごとく出張)。通常のツアー※※※は生産棟ではなく、旧製造棟で現在ショップになっているところで行われます。そこでは、ツアーガイドさんによってアメリカンジョークを織り交ぜながら、KOVAL蒸留所の創業者の愛の歴史、こだわりの製造方法について説明を一通り受けます。その後は、ニューメイクのライ、そのニューメイクをベーススピリッツとして造られたジンやリキュール、そしてウイスキーの試飲を行っていきます。ツアーガイドさんは、とてもエネルギッシュで自分の仕事に愛と誇りを持っていることがひしひしと伝わり、とても心温まるツアーでした。

そのエネルギッシュさに触れ、小嶋氏のことを思い浮かべました。彼女も、自分の仕事を愛して誇りに思っているのが伝わってきます。また、これまでKOVAL蒸留所で会ってきた人はみんな楽しそうであり、かつ自分の仕事を誇りに思う様子を感じられたことを思い出しました。当たり前ですが(意外に難しい)、『自分の仕事を愛し、誇りに思うこと』というのはウイスキー造りだけでなく、全てにおける『原点』なのでは? と思いました。

※※※2020年現在、ツアー場所は変更になっています。

小嶋氏が伝えたかったこと

上記の骨子を伝えたところ、小嶋氏から次のようなコメントを頂きました。

「私たちのウイスキー造りは『革新』について注目されがちですが、蒸留所内での樽の搬送など未だに人力でも行っているぐらいで、かなりアナログな蒸留所なんです。ただ、人間の手ではどうしてもできないことを先進技術で補っているだけです。」

そのコメントから着想を得て、本稿のタイトルが出来上がりました。

小嶋氏が私に伝えたかったニュース、それは4月1日からインポーターが株式会社都光になるとのことでした。これまでのインポーターへの感謝と敬意を示しつつも、更なるブランドの確立、アジアでの展開やイベントの開催を踏まえ、新たな一歩を踏み出すとのことでした。また、KOVAL蒸留所も現生産棟を拡張して、見学ルートを整備しバーも併設するとのことです。

最近ではNHKのローカル番組で特集が組まれる等注目が集まっているKOVAL蒸留所、そして小嶋氏の更なる飛躍を考えると、第4回目以降の蒸留所見学や今後の展開において、何が待ち受けているのか、楽しみで仕方がありません。

この記事を書いた人

Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。
Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。