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アメリカンウイスキーの進撃④『トレンド・キーワード』

①バーボンウイスキー

バーボンはケンタッキー州でしか造ってはいけないと誤解している方も多いと思います。実際、バーボンの90%以上はケンタッキーで造られていますし、ケンタッキー州バーボン郡という地名もありますので、そう思われるのも仕方ないかもしれませんが、バーボンウイスキーはあくまでアメリカンウイスキーのスタイルのひとつであり、アメリカ各地で造られています。 

②ライウイスキー

「アメリカンウイスキーといえばバーボン」と言い切れるほど、日本に輸入されるものはバーボンがほとんどでした。しかし、ここ10数年でライウイスキーが見直されてきており、クラフト蒸溜所はもちろんのこと、大手蒸溜所からも続々とリリースされています。以前はワイルド・ターキーやジム・ビーム、オールド・オーバーホルト程度でしたが、現在はジャック・ダニエルやウッドフォード・リザーブ、ノブ・クリーク、ブレット、エズラ・ブルックス、サゼラックなどなど、多くのブランドがライウイスキーをリリースしています。当初はトウモロコシではなく、ライ麦などを使用したウイスキーが主流だったこともあり、その独特な香味がアメリカ人の郷愁を誘うのかもしれません。

③イースト

糖をアルコールに変換するはたらきをするのがイースト酵母です。アメリカの大手ウイスキーメーカーは、イーストに対するこだわりが半端ではありません。スコットランドではイーストメーカーから購入していますが、アメリカでは各蒸溜所で代々受け継がれ、大切に保管されて、その都度試験管レベルから培養しスケールアップして使用しています。昔は蒸溜所所長が金庫などで管理しており、火事などの際には真っ先に持って逃げたほどです。現在もその酵母をアメリカや世界中の各地に分けて保管しており、何かあっても問題のないよう対応しています。

ほとんどの蒸溜所が1種類のイーストを使用していますが、フォア・ローゼズ蒸溜所は5種類ものイーストを使用していることで有名です。フルーティやスパイシー、フローラル、ハーバルなどのアロマを引き出す5種類のイーストを使用し、2種類のマッシュビルと組み合わせて、合計10種類ものタイプの異なる原酒を造り、さまざまなレンジの製品を個性豊かにリリースしています。

イーストはアメリカンウイスキーにとって、まさに味わいを決める魔法の薬なのかもしれません。

④18世紀スタイル・ウイスキー 

アメリカンクラフトビールを語る上で欠かせない、リッツ・メイタグ氏によって1993年にサンフランシスコで設立されたアンカー・ディスティリング・カンパニー(現在はホデリング社)。同社がアメリカンウイスキーの原点ともいえる18世紀当時のスタイルを再現したのが、オールド・ポトレロ 18thセンチュリースタイルウイスキー

ライ麦麦芽100%で仕込み、ポットスチルで2回蒸溜、内側を焦がしていないオーク樽で2年半熟成させたウイスキーです。内側を焦がした樽で熟成させていないため、現在の規定では「ライウイスキー」の表記はできませんが、ライ麦ならではの華やかなアロマ、スパイシーなフレーバーがしっかりと広がります。古き良き時代のアメリカを感じられるウイスキーです。

⑤ウッドフィニッシュ

アメリカ中で千箇所近くあると言われるクラフト蒸溜所。その中で、バーボンの新たな可能性を示したとされているのが、バーボンウイスキーの中心地・ルイビル市内で2013年に創業した「エンジェルス・エンヴィ蒸溜所」です。

ここでリリースされているバーボンは全て新樽で熟成後、他の樽で追熟・ウッドフィニッシュされています。スタンダード品はポート樽で18ヶ月追熟した6年物で、やわらかな新樽香に甘いポート由来の香味がバランスよく華やかに感じられます。ほかにラム樽やオロロソシェリー樽なども使用しています。エンジェルス・エンヴィは天使のねたみ・羨望という意味で、天使さんとしては分け前(エンジェルス・シェア)は貰っているけれど、樽に残っているものの方が美味しそうだなぁ……というお洒落なお話しです。ボトルもかわいらしく、裏面には大きな天使の羽が描かれています。

⑥斬新なウイスキーメーカー コルセア

アメリカでもっとも成功したクラフト蒸溜所と言われるコルセア蒸溜所。2015年からテネシー州ナッシュビル市内に蒸溜所を移しています。

この蒸溜所はとにかく変わっています。様々な穀物を原料にして、数多くのウイスキーやムーンシャイン、ジン、ラムを造っています。サクラ材とブナ材、ピートでそれぞれスモークした3種類の大麦麦芽を使ったモルトウイスキー「トリプル・スモーク」、ポップを効かせたウイスキー「ウォーリアーIPA」など独特で、それらをまとめたレシピ集も発刊されています。

糖化槽と初溜釜はステンレス製の立方体で容量1800ℓ、再溜釜はポットスチル形状ですが、下部がステンレス製、上部ヘッドは銅製で容量3400ℓです。樽は容量60ℓで、8~10ヶ月程度の熟成で製品化しています。この独特な製造方法や製品群はまさに既成概念にとらわれない、チャレンジ精神・アメリカンスピリッツを感じさせてくれます。

⑦ムーンシャイン

1791年、アメリカ政府がウイスキーに課税したことがきっかけで、農夫たちが違法な酒を月明かりの下で密造し始めたのが名前の由来とされています。もともと樽で寝かせていないので、ウイスキーではなくムーンシャイン。現在は数か月と短時間の樽熟成をしているものも見かけます。また、原料にコーン粉と砂糖を使用し、通常の糖化を行わないものも造られています。

2010年、テネシー州に設立されたオーレ・スモーキー・ムーンシャイン・ディスティラリー社は、同州にて初めてムーンシャインの製造・販売が許可された蒸溜所です。当時のムーンシャインをイメージして、コーンベースのスピリッツをオークの樽で3~6ヶ月熟成し、通常のボトルではなくメイソンジャーにボトリングしています。このマヨネーズ瓶のようなボトルに入れることで、カムフラージュしていたのでしょうか……

⑧スチルメーカー

ウイスキーを造る上で必ず必要なのは蒸溜機スチルです。アメリカで大手メーカーのほとんどの蒸溜機を製作し、多くのクラフト蒸溜所にも提供しているのが、ルイビル市内にあるヴェンドーム・コパー&ブラス・ワークス社(Vendome copper & brass works incorporated)です。同社は1903年創業で、名前のとおり銅や真鍮、ステンレス製品の加工をしています。

蒸溜所で使われる銅製のスチルのほか、発酵槽や溜液タンク・冷却機などのステンレス製品を50名以上の職人が手作業で製作しています。元々蒸溜所以外の依頼も受けていますが、現在は40程度の蒸溜所プロジェクトを抱え、製作・メンテナンスだけでなくコンサルティングも行っています。まさに蒸溜所を裏から支える、なくてはならないメーカーです。

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この記事を書いた人

谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。