Tasting Vocabulary 101
Bourbon
ウィスキーを表現するのに「バーボンの味がする…」と言ったら笑われるのがオチ、と考えるかもしれない。良くて同語反復の哲学的表現というところだろうか。
では「バーボン樽で寝かせたスタウトの味」だったらどうだろう。アメリカでは最近使用済みのバーボン樽でアクセントをつけた食品が大流行りだ。
ビールはもちろんメープルシロップ、コーヒー豆、バルサミコにウスターソース、果てには醤油なんていうのもある。そもそもスコッチやアイリッシュ、ジャパニーズなどのウィスキーの90%以上がバーボン樽で熟成されていることを考えれば、これらの食品はバーボンが他のウィスキーの薫りや味わいに与える影響を知るとてもいい機会を与えてくれることは間違いない。多くの場合、独特なバニラ香がアクセントになっていることが多いが、食品によってはヨーグルトのような薫りを拾っている場合もある。
High Gravity
Mason Jar
日本のお洒落な雑貨屋で見ることも多くなったMason Jar。
元々はアメリカの各家庭で作られていた「瓶製缶詰」容器だ。素材を入れ、蓋をして専用の圧力鍋で煮沸すれば完璧な保存食品の出来上がり。多くのアメリカ人にとってMason Jarは古き良き家庭へのノスタルジアそのもの。缶詰づくりは日本で言えば昔どこの各家庭で作っていた糠漬けに近いかもしれない。
最近ではビールグラスやコーヒーマグ、キャンドルランタンなどさまざまなシーンで使われているが、そもそもオートクレーブ・レベルの高圧・高温に耐えることができ、滅菌可能な密閉容器。手頃でどこでも手に入り、様々なサイズがあるとなればこれをホームブリューイングで使わない手はない。
次回以降、Mason Jarの様々な利用法をご紹介しよう。おっとその前に、とっても重要なことを。日本で売られているMason Jarの多くはあくまでイミテーション。缶詰用ではないので決して加熱しないように。
時代の証人
Elijah Craig
バーボンという名前の由来については諸説様々あるものの、酒自体の由来といえば決まってエライジャ(米国風の発音ではイライジャ)・クレイグということになっている。
首都ワシントンDCの南部・バージニア州オレンジ郡出身の彼は、18世紀の終わり頃、当時はまだバージニア州の西部一地域だったケンタッキーへ移り住む。本来牧師だった彼だが、ケンタッキーでは製紙工場やロープ工場、製材所、羊毛工場など様々な業を起こし地元の名士だった。特に製粉工場を営んだことでウィスキー蒸溜に携わったようだが(当時、多くの蒸溜所が製粉所を下地としていた)、実際のところ記録としてはここまでだ。
一説によれば、ある時、彼が造ったスピリッツを内側が焼けただれた樽に入れたまま忘れたというのがバーボンの始まりとされているが、そもそも大量の液体を詰めて移動できる容器といえば当時は樽しかなかったし、中を裸火で熱するのは樽を再利用するにあたって当たり前の行為だった。この説の発端は、エライジャの死後100年近くたって出版された「ケンタッキー初めて百科」とでも言うべき本にあるが、そこにはケンタッキー州ジョージタウン(今ではトヨタ初の北米工場の街として有名だ)の羊毛工場に併設された蒸溜所が最初の「バーボン」を産み出したとの記載がある。蒸溜所の名前も、所有者名も記されていないが、当時エライジャはジョージタウンで羊毛工場と蒸溜所の両方を経営しており、 そこから彼がバーボン発明の父と目されるようになったらしい。
ところがこの話自体、どうも辻褄が合わない。バーボンの名の由来の有力な説の一つが、この酒がバーボン郡発祥だからというものだが、ジョージタウンはそもそも同郡に属していなかった。もちろん後になってバーボン郡で造られたものが有名になってその名がついたとも考えられるが、いずれにせよウィスキーにまつわる起源の話は眉に唾をつけて聞くべきということには間違いなさそうだ。