分子中に硫黄を含む化合物、チオール化合物。これは香りとして知覚できる閾値がとても低く、少量でも混ざっていると人の鼻は敏感に感じ取ります。
ウイスキーでは銅製のポットスチルと反応させることでこれを取り除くことはよく知られておりますが、チオール化合物は必ずしも不快に感じる香りばかりではありません。
例えばパッションフルーツは、果物に多い酢酸エステル・柑橘系に多いリモネン・鈴蘭やラベンダー様のリナロールなどが香りのベースとなっていますが、微量に含まれるチオール化合物(メルカプトヘキサノールなど)がパッションフルーツらしい香気に重要な役割を果たしています。
また、産地や品種の特性がよく表れている白ワインなども微量に含まれるチオール化合物がその香りに貢献していることが知られていて、グレープフルーツ様のニュアンスを与えるものとしてメルカプトヘキシルアセテートなどがあります。このようなワインに銅でできている10円硬貨を入れてやると、途端に味気ない香りのワインに変わってしまうそうです。
ウイスキーではオフフレーバーとされる硫黄臭ですが、やや硫黄っぽさが残っているようなウイスキーにこそ、トリュフ・ブルーチーズ・たくあんなどチオール化合物が含まれる独特な食材を合わせるとしっくりくることがあります。
単体での美味しさや品質ももちろん大事ですが、一見欠点に思えるような香りでも、他のものと組み合わせて味わってみると単体では感じられなかった思いもよらない美味しさに出会うことがあるのです。
このような相乗効果を見つけるのもマリアージュの楽しさでは無いでしょうか。