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Tasting Vocabulary 101:ウイスキーの「湿ったダンボール臭」の英語表現とその正体は?

嗅ごうと思って嗅ぐ匂いではないが、「湿ったダンボール」と言われておおよそ想像がつく人は少なくないだろう。決してポジティブな表現ではないものの、スコッチにせよバーボンにせよウィスキーではいつかは必ず出会う匂いの一つだ。

tragic wet cardboard.” (https://flic.kr/p/8RBwFp) by thorney torkelson CC:BY-NC-ND 2.0

「湿ったダンボール」を英語で言うと?

一般的にダンボールを英語で”Cardboard box”というが、”Cardboard”は厚紙のことを意味する。「ボール」は”board”の米語発音をそのまま文字に書き取ったものに近い。今日で言えば「ボード」のことだ。つまり現代的には「ダンボード」。

一方の「ダン」は「段ボール」と書くことからもわかるように、「段々」をイメージしている。そう、ダンボール紙を断面から見たときの真ん中の波打状の層を表現したものだ。英語ではこれを”corrugated”という。ということでダンボールは正式には”Corrugated cardboard box”という。でもまぁ普通は”Cardboard box”で十分。

ということで、「湿ったダンボール」は”Wet cardboard box”。もしくは”Wet cardboard”でも十分だ。

ダンボール臭のウィスキーといえば

日本でダンボール臭がよく知られたウィスキーといえば、グラスゴー郊外にあった世界最古の蒸溜所Littlemillだろう。バーで「濡れたダンボール臭」を体験したいと頼めば無言でLittlemillが出てくる、というぐらい有名だった。

濡れたダンボールをもって「良い薫り」とする人はほとんどいないだろうし、そのような匂いが代名詞となってしまったLittlemillはお世辞にも評価が高い蒸溜所ではなかったが、もちろん中には出来の良いものもあった。僕がScotch Malt Whisky Societyで原酒選びをしていた頃、一度素晴らしく出来の良いLittlemillのサンプルに出会ったが、その特徴はダンボールの片鱗も感じさせない、ミントのような清々しいものだった。

ダンボール臭は何から生まれるか?

Littlemillはバーボン蒸溜器に似た特殊な精溜装置を再溜釜のネックに備えていたが、興味深いことに似たような蒸溜器を持ったLowmond蒸溜所やDalmore蒸溜所などのウィスキーも似たような匂いがすることが多かったように思う。もちろんバーボンでも時々ダンボール臭を感じることもある。ということで何らかの蒸溜工程から出てくる匂いとも考えられるが、実はそう簡単なものではないらしい。

そもそもダンボール臭はワインやビールではオフフレーバーの一つである酸化臭に良く用いられる表現だ。代表的なのはワインの”corked”(日本で言うと「ブショネ」)。ビールでも輸送中などに温まってしまったものなどによく発生する。

これらの醸造酒では原因となる成分の一つが「2-ノネナール」という化学物質であることが分かっているが、この物質は他にもキュウリなどの植物系の青臭さを想起させることで知られている。ミントも青臭さの一つなので、「素晴らしく出来の良いLittlemill」も根底ではやはりダンボールの血を引いていたのかも知れない(面白いことに「2-ノネナール」を嗅ぐと日本人はまず「蕎麦」を連想するらしい)。

2-ノネナールは醸造酒だけではなくスコッチやバーボンなどでも時々見つかるが、醸造酒とは異なり同じような酸化をするわけではないのでどんな工程で生まれるかは未だによくわかっていない。

一説によれば蒸溜の終盤で出てくるテール部分を取り込みすぎた場合に発生するらしいが、もう一つ考えられるのは熟成による酸化によるもの。樽内での酸化はウィスキーの熟成過程で起きる最も重要な化学反応の一つだが、ワインなどでは特に新しい樽で起きる酸化によって「2-ノネナール」が発生し、木屑のような臭いを引き起こすことが知られている。

僕がSMWSでジャパニーズ・ウィスキーの原酒選びをした時分は新樽熟成のサンプルが多く、印象は正に「おが屑」そのもの。これが新樽熟成による酸化の結果なのかはわからないが、もしこれがウィスキーにおけるダンボール臭と結びつきがあるとすれば、ウィスキーの世界はやっぱり奥が深い。

この記事を書いた人

ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。
ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。