Tasting 101
ミント
スコッチ・ウィスキーを中心にごくまれにウィスキーに感じるフレーバーがミント香だ。英語でミントというとペパーミントかスペアミント、日本で言えばハッカを意味するが、それらが持つメンソール由来のスーッとする清涼感を英語では「口の中が冷える感じ」を意味する”mouth cooling”や「リラックス感」を表す”soothing(スーシング)”と表現することが多い。
ウィスキーのメンソール??と思うかもしれないが、個人的には結構フレッシュなバーボン樽で熟成されたスコッチにそのフレーバーが見つけられるときが多かったと思う。面白いのはサリチル酸メチル。湿布などに使われる化学物質でカンフルやメンソールと並んで強い清涼感がある。エステル成分の一種としてウィスキーの発酵中に産まれる成分なのだ。北米ではwintergreenの香りとして知られているが、日本であれば「Winter」や「Cold」をうたったアメリカ製のガムかマウスウォッシュのリステリンの香りといえばわかりやすいかもしれない。
High Gravity
RDWHAHB
ホームブリューイングの世界に足を踏み入れてまず驚くのがその専門用語の多さだろう。 “vorlauf”のようにドイツ語の用語も多く、そもそも英語話者には正しい発音すらわからない、というものも少なくない(日本語で発音すれば「ヴォーローフ」が近い)。次の壁は略語・頭字語だろうか。IBUやABV程度ならまだいいが(前者は国際苦味単位、後者はアルコール度数)、DMSにOG、FG、SRM、TSP、さらにはLHAB、BIAB、RIMSにHERMS…と続くと読み進める気力も失われてしまう。実際、この世界に憧れたもののネット掲示板や入門書にあふれる専門用語に恐れをなして、足が遠のいてしまうという英語話者はかなり多い。そこでここから数回にわたってホームブリューイングでよく目にする略語をいくつか紹介していこう。なんといってもまずはRDWHAHB。Relax, Don’t Worry Have a Homebrew(落ち着いて、怖がることはないさ、ホームブリューを楽しもう)。アメリカ、ひいては世界にホームブリューイングを広める原動力となった偉大な功労者チャーリー・パパジアンの最も有名な標語だ。
時代の証人
Rafael Arroyo
ラムの製法に関する説明を読むと、ジャマイカなどで作られているヘビー・ラムと呼ばれるスタイルでは蒸溜時に残った「dunder(ダンダー)」廃液を次の仕込み、すなわち「モロミ」に加え、自然発酵させるとの記述を良く目にするが、この説明はちょっと不親切かもしれない。
伝統的なヘビー・ラムの製法ではダンダーの一部は「ダンダー・ピット」と呼ばれる屋外にある溜池に加えられ、そこで酪酸菌や酢酸菌による発酵が進められた後、始めてモロミに戻される。ピットから放たれる匂いは「肥溜め」をはるかにしのぐとされ、あまりの悪臭に死んだコウモリやヤギの頭が投げ捨てられているという噂があるほどだ。そこから得られるおぞましい液体には英語でも肥やしと同じ「muck(マック)」という言葉が当てられている。
こんなものがラム造りの一部というのは衝撃だが、マックの強烈な臭いは主に酪酸によるものだ。一方でパイナップルなどヘビー・ラムを代表する果実香は酪酸エチルをはじめとする酪酸エステルによるもの。つまりマックはヘビー・ラムが醸造・蒸溜過程で生み出す特有のフルーツ香の原因物質を育てる「母なる池」なわけだ。
昔はカリブ諸国のラム造りではどこでもダンダーやマックが使われていたと考えられるが、それは高温多湿な環境で栄養豊富なサトウキビの糖液が異常発酵しないようにと生み出された先人の知恵の結果だった。一方でプエルト・リコやキューバなどカリブのスペイン語圏では戦後、軽めのライト・ラムが好まれるようになってきた。そこではダンダーやマックは使用できない。味が強すぎるからだ。培養酵母を使用し新たなラム作りに多大な貢献をしたのが米領プエルト・リコ生まれのRafael Arroyoだ。1892年西部マヤグエスに生まれた彼はルイジアナ州立大学に修学、製糖業界での研究を経て国の農業試験局で当時未発達だったラムの発酵技術に革新的な知見を与えている。その研究結果は長らく日の目を見なかったが、最近ではその先見性が再発見されている。